ハプニング


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

朝8時33分。異変はマンハッタンのセントラル・パークで始まった。突如、人々が自殺し始めたのだ。やがて東海岸を中心に、異常行動は全米に広がり出す。高校の生物教師エリオット(マーク・ウォールバーグ)は、妻(ズーイー・デシャネル)と親友である同僚(ジョン・レグイザモ)、同僚の娘らと共に脱出を図るが、謎の魔手は彼らにも迫る。


レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006)でがっかりさせられたM・ナイト・シャマランの新作は、超自然現象を扱ったホラー/スリラー。前作は自己陶酔ばかりで観客をおいてけぼりにした、スリルもサスペンスも無い駄作でしたが、本作の出来栄えや如何に。不安と緊張感を盛り上げる手腕に関しては現役監督の中でもトップクラスの人ですから、多少の期待を持って劇場に出掛けました。


序盤はこの種の映画として掴みは上々、結構ショッキングな描写が続出します。特に強烈なのがビル工事現場の場面。手前に工事業者が居る構図で、いきなり画面奥にドサッと人が落ちて来ます。業者の視点として、ゆっくりと近付くキャメラ。足が妙な具合にひんまがった、血まみれの死体が。すると、またドサッ。ドサッ。上を見上げると、数人の同僚達が次々と宙から落ちて来る・・・。


自殺に使われた拳銃が、次々と負の連鎖として近くに居た者たちも使われて行く場面なども含め、血生臭いシャマラン作品とは新機軸。iPhoneも惨劇の目撃者・記録者として登場します。今後、iPhoneを使ったホラー映画が出て来るかも知れません。


この異常現象は一体何だ!? と全米規模となった謎のスケールは大きく、また災厄の波から逃れようとする市井の人々を描こうとし、観客の興味を引っ張ります。


肝心の謎解きが中途半端なのは案外良いとしましょう。それでも、死に行く者たちの条件に一貫性が無いように見え、観客の疑問を押し挟むのは不条理劇としても良いのか。また登場人物の描き込みが相当に浅いので、観ていていちいち彼らの行動に納得出来ず、感情移入しにくいのが難です。


主演のウォールバーグも常に眉間に皺を寄せて深刻そうな表情だけの一本調子。演技の起伏に乏しい。贔屓のレグイザモも、この程度の使われ方では勿体無いことこの上ありません。もっと彼の持つ抜群の演技力を使えるくらいに、描き込まれていたら、と惜しまれます。ズーイー・デシャネルは『あの頃ペニー・レインと』(2000)での主人公の姉役が印象的でしたが、この人の大きな瞳は、事件に巻き込まれた目撃者役としても印象に残りました。


随所のサスペンス演出や、じりじりするようなスリルの盛り上げ方などは、シャマラン好調時の頃に戻ったかのよう。技術的には中々高く、ゆっくり移動するキャメラを用いた長回し撮影など、やっとるやっとる、とニヤリとさせます。この辺りは復調の兆しも見えるのですが、前半は中々好調だっただけに、脚本の詰めの甘さも含めた後半の失速が残念です。


面白いのは、クライマクスとして用意されている夫婦の絆を取り戻す場面。余りに感傷的過ぎると思いましたが、この死生観はシャマランのルーツであるインド、東洋的なものを感じました。西欧のキリスト教の倫理観とは少々違うようで、ハリウッド映画としては異色でしょう。


ハプニング
The Happening

  • 2008年 / アメリカ、インド / カラー / 91分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for violent and disturbing images.
  • 劇場公開日:2008.7.26.
  • 鑑賞日:2008.7.27./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン5 ドルビーデジタルでの上映。日曜14時10分からの回、174席の劇場は6割の入り。
  • 公式サイト:http://movies.foxjapan.com/happening/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、壁紙、blogパーツなど。