アクロス・ザ・ユニバース


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1960年代。リヴァプールからやって来た労働階級の青年ジュード(ジム・スタージェス)は、見たことの無い父親に会う為にニュージャージー州にあるプリンストン大学にやって来た。だが息子の存在すら知らなかった父親は、戸惑いを見せるだけ。ジュードは大学生のマックス(ジョー・アンダーソン)と意気投合するが、マックスの妹である美しくも芯のある美少女ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)と出会い、恋に落ちる。やがてジュードとルーシーは激化するヴェトナム反戦運動に投げ込まれ、2人の関係もその影響で変化していく。


大ヒットミュージカル『ライオンキング』や、前衛的な血みどろシェイクスピア映画の怪作『タイタス』(1999)等で知られる鬼才ジュリー・テイモアの新作映画は、ビートルズの歌で埋め尽くされたミュージカル映画でした。パワー全開の映像と、歌・歌・歌!。スコアは夫君のエリオット・ゴールデンサールが担当していますが、こちらは映像と歌にかき消され、全く耳に残りません。


物語だけ取り上げると、典型的なボーイ・ミーツ・ガールものです。しかし予想に反して恋愛ものの色よりも、当時のアメリカの情勢や若者像の方が強烈な印象を残します。時代の空気を切り取りつつも、現代のイラク戦争への痛烈な批判にも繋がっていて、これは作者たちの強い声明となっています。


これらを浮き上がらせるのが、ビートルズの名曲の数々。特にインパクトがあったのは、『アイ・ウォント・ユー』の使い方。こんな風に使われるとは、ビートルズのメンバー(もう、ポールとリンゴしか生きていないけど)もビックリしたことでしょう。他にも『抱きしめたい』『ビコーズ』『レット・イット・ビー』等、あっと驚く使われ方が多く、ジュリー・テイモアらスタッフのユニークな着想は非常に面白いものとなっています。物語と歌とメッセージが強固に結び付いた例として、記憶に残るものとなりました。


映画としては序盤は映像も含めて普通の映画として始まります。この監督にしては大人しいな・・・と思っていたら、途中からはかなりぶっ飛び系の映像が氾濫するようになります。観客によっては引いてしまうかも知れないサイケデリックな世界。この映画で好みが分かれるとしたら、このアクの強さも理由の1つになり得えます。


しかしながら面白いと思いつつも、正直に言って所々乗り切れないところもありました。これは作り手が若者の恋愛や反戦運動などの熱狂を描きつつも、どこか冷めた目線で観ているからでしょう。作り手にはある程度の冷静さが求められるとはいえ、ミュージカルなのだから、映像同様にもう少し熱に浮かされても良いのでは・・・と思ったのです。イマジネーション豊かであっても、その目線が邪魔になっているような気がしました。


でも、僕としては終幕の『ヘイ・ジュード』から『愛こそはすべて』に掛けての盛り上がりで帳消しにしたい。これぞミュージカル、いや、音楽劇の高揚感。主人公ジム・スタージェスの歌声も良いし、エヴァン・レイチェル・ウッドも可愛い。かつては「ビートルズなんて単純過ぎて嫌いだ」などと言っていましたが、今更ながらこうして耳を澄ますと、単純にメロディーラインが美しい歌って良いものだと思いました。ですからビートルズとミュージカルの相性は良かった。歌詞のもたらす作用も含めて、ミュージカルの中で曲が生きています。


場をさらう貫禄で登場するジョー・コッカーや、U2のボノら大物アーティストの歌声も良いし、エンドクレジットに流れる『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』でのボノ&ジ・エッジのギターも格好良い。


アクロス・ザ・ユニバース』は、一見の価値がある力作ミュージカルです。


アクロス・ザ・ユニバース
Across the Universe

  • 2007年 / アメリカ / カラー / 131分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some drug content, nudity, sexuality, violence and language.
  • 劇場公開日:2008.8.9.
  • 鑑賞日:2008.9.1./アミューズCQNシアター1 ドルビーデジタルでの上映。映画の日の平日月曜10時30分からの回、200席の劇場は約20人の入り。
  • 公式サイト:http://across-the-universe.jp/ 日本公式サイト。予告編、blog、キャスト&スタッフ紹介など。
  • http://www.sonypictures.com/movies/acrosstheuniverse/ 北米公式サイト。予告編、『I've Just Seen A Face』『If I Fell』『Girl』の劇中クリップがストリーミングで見られる。