ハンコック


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

空を飛び、怪力を発揮するハンコック(ウィル・スミス)は、ぐーたらで飲んだくれ、ホームレスのような日常を送り、器物破損を繰り返している人々の嫌われ者。彼に命を助けられたPRマンのレイ(ジェイソン・ベイトマン)は、恩返しとして彼のイメージチェンジ、イメージアップを図ろうとするが、レイの妻メアリー(シャーリーズ・セロン)はハンコックを忌み嫌う。


ウィル・スミスとPRマン役ジェイソン・ベイトマンの組み合わせ、それに思わせぶりなベイトマンの妻役シャーリーズ・セロンと、役者の個性の組み合わせも良く、特撮アクションとコメディを上手く取りまとめたピーター・バーグの演出も含めて、滑り出しは快調です。


ご贔屓スターの1人であるスミスは、相変わらずの軽妙な、でも少々ナルシスティックな演技ですが、それもこの映画には合います。熱演していた『アイ・アム・レジェンド』(2007)などよりも、この手の軽い娯楽映画の方が彼には良いのではないかと思いました。とは言え、演技力を見せ付ける映画と、軽めの映画に交互に出演しているところは、中々計算高い。大スターとして一時代を築いているのも、そんな頭の良さによるところも大きいのでしょう。


シャーリーズ・セロンも大好きなスターです。前作『告発のとき』(2007)の生活に疲れたシングルマザー刑事役とはかなり違う役どころですが、どちらも地に足の付いた演技。この人の持つ個性の1つは、美貌に見劣りしない演技力です。スミスに負けない存在感のある彼女の起用は当然で、他にこの役を演じられる女優は思い浮かびません。


キングダム/見えざる敵』(2007)、『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』(2007)、『JUNO/ジュノ』(2007)と、このところよく見掛けるジェイソン・ベイトマンは、個性がやや薄くとも、ちょっと人の良い、でも人間臭さも程よく持ち合わせているところが、脇役として重宝されているのでしょう。スミスとセロンという、下手すると現実離れした大スターに対して、ベイトマンというどこにでも居る一般人のような俳優を配置することによってバランスを保つ。彼はそれを難なくこなしています。


特撮を上手く生かし、笑いも多い前半はかなり面白い。ハンクコックのハタ迷惑な活躍も笑えますし、要所のブラックユーモアも下品ですが可笑しい。娯楽映画としては上々です。


しかし中盤である秘密が明らかになってからの転調が、まるで上手く行っていません。面白くなりそうなアイディアなのですが、ここから脚本の出来ががたと落ちます。本質的にシリアスなテーマを内包した展開、という目線は悪くない。しかし前半はコメディで押しながら、終盤に至って工夫無く単純な展開になり、それまではブラック・ユーモアで済まされた描写が殺伐とした暴力に取って代わり、ばんばん殺人も起きてしまいます。物語とテーマが消化し切れていない。暴力や殺人を描くことで何かテーマが浮かび上がって来るのであれば良いのですが、ここでの描写や展開では、そのような役割を担っていません。
そもそも秘密にまつわるハンコックの危機も、展開や描写に辻褄が合わず、観ていて納得出来ません。多少の矛盾はご愛嬌でも演出にパワーがあれば良いのですが、ピーター・バーグはそういった監督ではなく、無難にまとめ上げるタイプ。それが後半では裏目に出てしまいました。


脚本家や製作者たちは、中盤のどんでん返しを思い付いて安心したのか、それ以降の展開は安っぽい。捻りを物語に消化させるのに失敗した様を観るにつけ、どうせならば取って付けたような「悲恋」などはやめ、ヒーローのイメージチェンジ戦略とその顛末を徹底して推し進めたコメディにしても良かったのではないでしょうか。それでも最近の大作が無駄に長くなる傾向の中、1時間半にまとめ上げたのは長所としましょう。


Mr.インクレディブル』(2004)、本作、『ダークナイト』(2008)と、まさしく現代はヒーロー受難の時代。ヒーローもスクリーンの中ですら生きていくのが大変な時代になったようです。


ハンコック
Hancock

  • 2008年 / アメリカ / カラー / 92分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some intense sequences of sci-fi action and violence, and language.
  • 劇場公開日:2008.8.30.
  • 鑑賞日:2008.8.24./TOHOシネマズ横浜6 ドルビーデジタルでの上映。先行上映2日目の日曜13時45分からの回、205席の劇場は7割の入り。
  • 公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/hancock/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、ミニゲーム、「損害額はHOWマッチ?」など。ハンコックを扱ったドキュメンタリを模したデザインが面白い。