ウォンテッド


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

デブで嫌味な女上司にいじめられ、恋人は同僚に寝取られ中。でも何一つやり返せないという、ストレスの溜まる日常を送る気弱な青年ウェスリー(ジェームズ・マカヴォイ)は、ある日突然、薬局で謎の殺し屋クロス(トーマス・クレッチマン)に襲われる。窮地を救ってくれたのは、やはり殺し屋のフォックス(アンジェリーナ・ジョリー)だった。フォックスに連れて行かれたのは織物工場。そこでウェスリーは、ボスのスローン(モーガン・フリーマン)から、彼らはこの工場を隠れ蓑に世界の裏で情勢を左右させる暗殺者集団であり、幼い頃に家を出て行った父親は、ここの敏腕殺し屋だっだと知らされる。先日、父親はクロスによって殺されたのだった。父の仇を討つべく暗殺者集団の特訓を受けるに従って、ウェスリーの中に秘められていた才能が覚醒していく。


ナルニア国物語/第1章 ライオンと魔女』(2005)、『つぐない』(2007)と日本でも公開作品が続いたジェイムズ・マカヴォイは、顔付きは繊細なハンサム、生っ白くて小柄。およそ大作アクション映画の主役に不向きと思われる彼が起用されたのが面白い。これが成功で、前半における軟弱でストレスフルな主人公役が似合っているし、後半での変貌振りも見ものとなっています。


広告ではさも主役であるかのように扱われているアンジェリーナ・ジョリーは、実は脇役です。痩せて目の回りも黒く縁取りメイク、凄みのある女豹と化したアンジーは、クライマクスも含めて何気に場面をさらいます。容赦無く主人公を痛めつけてシゴく様が余りに似合っていて、軟弱なマカヴォイ君との対比も可笑しい。暴力的で強烈な役どころとして、彼女の代表作に挙げても良いのではないでしょうか。出番は少なくとも観客の眼がつい行ってしまうところが、華のあるスターならではです。


「1人を殺して1,000人を救う」と、あの深みのある声で主人公と観客を納得させるモーガン・フリーマンは、個人的にも大好きな名優ですが、本作の場合は物足りない印象を受けました。登場するくだりは良いのですが、終幕の扱い方、見せ方が弱い脚本の欠陥の煽りを食らったようです。これは勿体無い扱いでした。


マーク・ミラーによる原作コミックを基とした映画の内容は、荒唐無稽そのもの。暗殺者集団の存在そのものもですが、ウェスリーの受ける厳しい特訓場面も相当に可笑しい。何せ格闘技も刃物による戦闘も、訓練は実戦形式。ぼこぼこに殴られ、刺され、アンジー姐さんにメリケンサックで痛め付けられ、と散々ヒドい目にあいます。しかし不思議不思議、秘薬の風呂に入るとたちどころに怪我も治ってしまいます。そして回復したらまた痛めつけられるという無間地獄。憧れのお姐さんに痛めつけられるのですから、人によっては無限極楽でしょうが、観ているこちらは顔をしかめながら笑うという次第です。


徐々に特訓の成果を出し始めるウェスリーに、最初の暗殺任務が課せられます。この中盤までも中々面白いのですが、物語にドライヴが効いて来るのはこれから。プロットは捻りが効いていて、演出は加速度的に盛り上がります。単なるバカ映画と侮るなかれ。意外にもきちんと作られた映画なのです。


これは監督が主役の映画です。『ナイトウォッチ』シリーズで知られるロシアのティムール・ベクマンベトフによる演出は、この種の映画に相応しく、力強くケレンたっぷり。アクションとサスペンスの見せ場を、全編隙間無くぎっしり詰め込みました。馬鹿馬鹿しくも暴力的、荒唐無稽なアクションが連発されます。暗殺の瞬間を弾丸の発射まで逆回転で見せたり、弾丸にスピンを掛けて弾道さえも曲げてしまう暗殺者集団が使う技を超スローモーションで見せたり、特撮を駆使して描かれるアクションは、リアリズムよりも意外性や迫力、爽快感重視。近年の特撮で誤魔化すアクションとは一線を画し、むしろ特撮を使うことによって魅せるアクションを徹底させている点で、『マトリックス』(1999)と同系列の作品と言えましょう。そう言えば主人公がある日自分の正体を知り、特訓の果てに自己発見をしていくなど、プロットもあちらとかなり似ています。


問題は、1,000人を救うどころではなく、1,000人くらいは劇中で殺しているように、超暴力的で血生臭い内容であること。弾丸が頭部を撃ち抜く描写は元来観ていて愉快ではないものですが、その類いの描写も多い。相当に現実味が無い映画なのでリアリズムからかけ離れていますが、主人公が痛め付けられる場面も含めて馬鹿馬鹿しいブラックユーモアとして楽しめるかどうか。観る人を選ぶ映画となっています。


ダニー・エルフマンの音楽は、得意のドコドコ節に哀愁溢れる欧風メロディを乗せていて、画面に合っていたものでした。


これは『マトリックス』影響下にある、『リベリオン』(2002)と並んで良く出来た映画なのです。


ウォンテッド
Wanted

  • 2008年 / アメリカ / カラー / 110分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong bloody violence throughout, pervasive language and some sexuality.
  • 劇場公開日:2008.9.20.
  • 鑑賞日:2008.9.14./TOHOシネマズ ららぽーと横浜1 ドルビーデジタルでの上映。3連休中日である先行上映2日目の日曜13時15分からの回、125席の劇場は9割の入り。
  • 公式サイト:http://www.choose-your-destiny.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノートなど。