アイアンマン


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

億万長者トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は、天才発明家にして大手兵器会社社長でもある死の商人アフガニスタンでの最新ミサイルのデモの際、現地テロリスト・グループの襲撃に遭い、捕らえられてしまう。テロリストたちの要求は、「俺たちの為にもミサイルを作れ」というもの。トニーはミサイルを作る振りをしながら、同じく捕えられていた学者と協力してパワード・スーツを作り上げ、アジトからの脱出に成功する。自分が開発して売った兵器がテロリストに使われたことを知ったトニーは、兵器の開発と販売停止を発表。さらに洗練されたパワード・スーツを秘密裏に開発し、テロとの戦いに挑む。だがトニーの知らないところ、身近なところで、陰謀が進められていた。


アメコミ映画の佳作がまた誕生しました。日本では公開が前後しましたが、先に公開された『ダークナイト』(2008)が現代を暗く混沌としたリアリズムで捉えたのに対し、こちらは単純明快。ケレン味たっぷり、痛快且つ軽妙な映画です。『ザスーラ』(2005)のジョン・ファヴローの演出はテンポも良く、随所に笑いを塗して楽しませます。アクション場面も最近流行の細切れ編集ではなく、何がどうなっているのか具体的に状況が分かるもの。こういった娯楽アクション映画に合ったものです。ラストにおける、ヒーローにあるまじき大爆笑爆弾発言でさっと終わらせるのも上手い(その後、エンドクレジット後にちょっと続きがありますが)。アクションとコメディの両方共に観客を楽しませる呼吸を知った監督の映画となっています。


この映画の軽快さ、明るさ、痛快さは、主演のロバート・ダウニー・Jrの個性によるとことが大きい。かつては若手演技派と言われた彼も、アル中や麻薬中毒での服役でキャリアを棒に振りそうになったことがありましたが、そういった酸いも甘いも知った男ならではのシブさ…が、ここに露骨に無いのが素晴らしい。


この主人公、発明するのが大好きで、物事に熱中すると誰にも止められない。プレイボーイで、ちょっとナルシストで目立ちたがり屋。どこか子供っぽさの残る言動で憎めない男です。襲撃に遭った際、心臓付近に重症を負ったトニーは、胸に埋め込まれた生命維持装置無しには生きられない身体となりました。また、尊い犠牲のお陰で生き長らえ、テロ組織のアジトからの脱出に成功したのです。それらの重みも受け止める主人公…などという、単純でベタな展開でありながら、自分が何も考えずにやって来た事の結果を知って改心し、成すべきことに目覚める姿を、ダウニー・Jrは誠実に演じていて説得力があります。しかし改心しても性(さが)は抑えられず。ついつい目立ってしまうのが可笑しい。ダウニー・Jrは笑いの間がとても上手く、観ていてついつい笑わられてしまいます。これは彼のシリアスな面とコミカルな面の両方が観られる映画ともなっているのです。


この映画自体、子供っぽいといえば子供っぽい。軍産複合体の問題に突っ込むことも無く、飽くまでも娯楽に徹しているのですから。それでも自らの兵器が自らに牙を剥くという現実を取り込んだハリウッド大作娯楽アクション映画は、これが初めてではないでしょうか。『シリアナ』(2005)という硬派佳作スリラーもありましたが、本作の方が間口の広い作りです。その上での批判精神はちょっと評価したい。


主人公同様に少年の心を持っているのは、この映画そのもの。前半においてかなり丁寧に描かれるアイアンマン開発の様子は、子供心をくすぐります。最初は粗末な設備と材料でトンテンカンテン。アメリカに戻ってからは近未来の設備と材料で。この対比も面白い。数々の実験失敗も笑えますが、徐々に形になっていく様は観ていてわくわくします。監督自身がわくわくしているかのよう。そして初めての飛翔場面。思わず高度を上げてしまうトニー・スタークのことを、「イイ歳した大人が・・・」などと言うなかれ。単純に飛びたいんだ、というトニーの心情が描かれている場面なのですから。『アイアンマン』にあって『ハンコック』(2008)に無かったのは、こういったわくわく感ではなかったでしょうか。


この手のヒーローものの起源を描いた作品の常で、アイアンマン誕生まで相当に時間を費やしている為、終幕がやや駆け足気味なのはやむを得ません。また、クライマクスはアイアンマンの性能全開とはいかない展開なのも、やや欲求不満気味になります。そういった点で、1本の映画としての完成度はやや落ちました。パワー全開大活躍は2010年公開予定の第2作でお目に掛けよう、ということなのでしょう。しかしそういった点を差し引いても、この映画にはわくわくさせるような楽しさに満ちています。


グウィネス・パルトロウが好演する、トニーの有能且つ忠実な秘書ペッパー・ポッツとのささやかなロマンスや、見るからに怪しい共同経営者役ジェフ・ブリッジスなども含め、役者たちも楽しい映画でもあります。


アイアンマン
Iron Man