ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ロンドン市民の安全を守るべく、日夜職務に燃える勤勉な巡査ニコラス・エンジェル(サイモン・ペッグ)。文武両道に秀でた彼は余りに優秀過ぎた為、同僚や上司たちからの反感を買い、田園広がる田舎町サンドフォードに飛ばされてしまう。そこは殺人事件が何年間も未発生で、脱走した白鳥を捕らえるのも警官の仕事という、のんびりした町だった。おまけに一緒に組まされた相棒のダニー(ニック・フロスト)は無類の刑事映画オタクで、発泡経験のあるニコラスを羨望の眼で見つめながら質問を連発する始末。しかし町の住人たちが次々と怪死する事件が発生する。ニコラスは連続殺人事件と睨むものの、誰もが事故として取り合わない。ニコラスの単独捜査が始まった。


「Fuzz」とは警官のこと。海外版ポスターでは、サングラスを掛けて楊枝を咥えたニコラスとダニーが炎を背にし、警官バッヂ付き防弾チョッキと銃器で決めている絵柄です。よくある警官ものと思った方、しかしこれは違うのです。監督エドガー・ライト、主演サイモン・ペッグ、脚本ライト&ペッグ、ニック・フロスト共演というと、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)の面々。ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(1978)の秀逸なパロディ映画は、同時にロメロ映画への優れたオマージュでもありました。本作も過去の警官映画へのオマージュとなっています。そして珍しや、イギリスの制服巡査ものでもあるのです。


ショーン・オブ・ザ・デッド』と共通して、本作は過去の映画への愛情が溢れています。それも古典ではなく、1980年以降の映画への目配せが目立つのが特徴です。『リーサル・ウェポン』(1987)の予告編音楽を流し、ダニーが大好きという設定の『ハートブルー』(1991)と『バッドボーイズ2バッド』(2003)の場面をキャメラワークも含めて引用し、『ドミノ』(2005)に代表される最近のトニー・スコット作品に顕著な神経症的な映像と編集をときに真似をし・・・と、想起させられる作品の枚挙にいとまがありません。刑事映画ではないけれども、名作『わらの犬』(1971)もありましたな。そのどれもが茶化しではなく、「自分たちはこういうのが好きなんだ」という表現になっていて、微笑ましい。


いわゆる単なるパロディ映画でないのは、脚本がしっかりしていることが挙げられます。最初はコメディとして始まりますが、途中で連続殺人鬼ものへと変貌し、終盤は大アクションが炸裂します。こう書くと、ジャンルごた混ぜの行き当たりばったり映画に思えるかも知れませんが、実際に観てみると展開は唐突ではなく、話の流れもきちんと整理されています。それでいてちゃんとコメディ映画にもなっているのです。スプラッター映画ばりの殺人場面もありますが、個人的にはブラック・ユーモアとして許容範囲内でした。だってほら、モンティ・パイソン映画だって、結構スプラッターしていたではないですか。『ショーン・オブ・ザ・デッド』が大丈夫な方でしたら、問題無いでしょう。このようなゴア描写の扱い方や全体の間が、ハリウッド映画とは違った、いかにもイギリス映画らしいのが面白い。


サイモン・ペッグは、『ショーン〜』のダメ主人公とは正反対に、正義感が強い警官をマジメに好演しています。一方、『ショーン〜』同様にボンクラでダメな相棒役ニック・フロストは、今回もダメっぷりで笑わせてくれます。村の面々も、ジム・ブロードベントティモシー・ダルトン、嫌味な同僚刑事役のパディ・コンシダインなど、英国演技派を揃え、それぞれ可笑しい。彼らの怪演もお楽しみの1つです。


意外な展開や特徴的な登場人物の面々の可笑し味も含めて、全体的に非常に満足度の高い映画なのですが、2時間は少々ゆるく感じられました。これがあと10分くらい短く締まっていたら、大傑作になったのではないでしょうか。加えてクライマクスには馬鹿力演出が欲しかった。これがまだ監督2作目のエドガー・ライトの演出は、丁寧且つ外さないし、全体に面白く、嫌味無く映画への愛に溢れていて好感が持てます。しかしここは、滑稽かつ異様で可笑しい状況に合った、もっと下品なまでのパワーが必要だったように思えました。そう、カメオ出演しているピーター・ジャクソンのような。


このような問題はあるものの、『ホット・ファズ』は凡脈のハリウッド製アクション映画にもオマージュを捧げているにも関わらず、それらを凌ぐオリジナリティある映画に仕上がっています。笑いとアクション、猟奇ホラーの融合を、是非お楽しみ下さい。


尚、ピーター・ジャクソンだけでなくケイト・ブランシェットも出演していて、思わず『ロード・オブ・ザ・リング』3部作を思い出しましたが、鑑賞中にはまるで気付かず、IMDbを見て知った事を、正直に申し上げておきましょう。


ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!
Hot Fuzz

  • 2007年 / イギリス、フランス / カラー / 120分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for violent content including some graphic images, and language.
  • 劇場公開日:2008.7.5.
  • 鑑賞日:2008.7.5./チネチッタ川崎9 ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜11時55分からの回、154席の劇場は9割の入り。
  • 公式サイト:http://hotfuzz.gyao.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノートなど。