JUNO/ジュノ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

16歳の高校生ジュノ(エレン・ペイジ)は、バンド仲間のポーリー(マイクル・セラ)と好奇心からの只一度のセックスで妊娠してしまう。堕胎しようと思うものの出来ず、出産を決意。ジュノは養子募集の広告を見て、高収入の若い夫婦のマーク(ジェイソン・ベイトマン)とヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)相手に、生まれてくる子供を渡す約束を交わすが。


十代の妊娠というテーマを扱いながらもドライ且つ笑い溢れるタッチなのは、アメリカ映画ならでは、と括るのは安易でしょうか。でもこれの題材を日本で映画化したら、こうはいかなったかも知れません。父親と義母は最初はショックを受けつつも、直ぐに冷静且つ現実的な対処をしてくれる。養子募集の広告を見て応募するなどというのも、養子縁組が余り一般的でない日本では考えられないのではないでしょうか。


ヒロインのジュノは、頭脳明晰で言うことがいちいち的を得ていながら、皮肉かつ捻ったユーモアの持ち主です。エレン・ペイジの台詞回しも面白可笑しくて、観ていて笑いがこぼれます。全部は聞き取れませんでしたが、字数と時間の制限の中で、字幕は善戦していたと思います。ヒロイン像で絶妙なのが、皮肉っぽいユーモアで自分を守っている、まだ純粋なところもある高校生として説得力があるところです。これだけ冷静に周囲を見渡し、且つ自分自身を見られるなんて、大人でもそうは出来ないこと。でもうそ臭さを感じさせない点で、この人物像は絶妙と言えます。ジュノはスクリーンに向かって思わず応援してしまいたくなるようなヒロインです。


また、周囲に悪人は登場せず、分別をわきまえた人たちばかり。そういった点で、これはぎりぎり現代の御伽噺、一種のファンタシーとも言えます。その印象はラストからも受けました。只のハッピー・エンディングではなく、作者の願いも込められているようなラスト。ジュノには幸せになって欲しい、という願いが込められているように思えます。


映画が絵空事に感じられないのは、これが第1作の脚本家ディアブロ・コディが人物像を活き活きと描写しているからです。飼ってもいない犬の写真を切り抜きしている義母の描写など、脇役も含めて細かいところにまで神経が行き届いています。基本的に女性たちに肩入れし、男性の方が概ね冴えないように思わせながらも、皆それぞれ面白い性格付けがされていました。


里親ヴァネッサ役のジェニファー・ガーナーは等身大の女性を真摯に演じていて、非常に好感が持てます。最初はちりちりと焦げそうな緊張感のある面持ちですが、その理由も明らかになりますし、徐々に本来の姿が表れてくる上手い脚本と相まって、とても良かったと思います。夫マーク役のジェイソン・ベイトマンも夢を捨てきれない男を、ジュノの父親役J・K・シモンズらも、それぞれ的確な演技で好演していました。


ジェイソン・ライトマンの演出は軽妙かつ外しません。前作『サンキュー・スモーキング』(2005)も膝を叩きたくなるくらいに面白かったのですが、本作も見事です。笑いと少しの感動を匙加減良く混ぜ入れ、テンポも快調。これが監督2作目とは、先行き益々楽しみ。ディアブロ・コディとまた組んでくれるようですので、今後の作品にも期待したいものです。


JUNO/ジュノ』は小品でもきらり輝く、愛すべき佳作です。是非、ご覧下さい。


JUNO/ジュノ
Juno