28週後...


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

汚染された血液に一滴でも触れると、瞬時に凶暴化して他人を襲い、感染が広がる「レイジ・ウィルス」の惨禍は収束した。28週後、イギリス本土は米軍の協力を得て秩序を取り戻しつつあるのだ。ドン(ロバート・カーライル)はスペインに避難させていたティーンの娘タミー(イモジェン・ブーツ)と幼い息子アンディ(マッキントッシュ・マグルトン)を呼び寄せ、再会を喜ぶ。しかし彼は、子供らの母親である妻アリス(キャサリン・マコーマック)の死をも知らせるのだ。姉弟は汚染地域されて立ち入り禁止区域となった住み慣れた実家に、母の忘れ形見を取りに行く。それが再び感染を巻き起こすとは知らずに。


2002年にスマッシュ・ヒットした、監督ダニー・ボイル&脚本アレックス・ガーランドによる前作『28日後...』は、ゾンビテーマの亜種として中々成功した部類の映画でした。デジタルヴィデオ撮影によるやや荒れた冷たい映像と、その後当たり前となる全力疾走ゾンビも終末感を煽っていました。結局は、ウィルスに感染したゾンビよりも人間の方が始末に悪いという『死霊のえじき』(1985)のような展開は、道徳的に真っ当過ぎてやや肩透かしを食らったような気分になりましたが、面白く、衝撃的な映画には違いありません。無人で荒れ果てたロンドンの映像も驚きがあり、こういった道具立ては最近のハリウッド大作映画『アイ・アム・レジェンド』への影響も大きいように思えます。


今度の続篇では、ボイルとガーランドは製作総指揮に回り、監督はスペインのフアン・カルロス・フレスナディージョに交代。撮影もヴィデオからフィルムになって大作らしい雰囲気になっています。これが大成功です。


映画は、どうやら時間軸が『28日後...』と同じくらいの時期から始まります。暗闇の台所で始まる男女の会話場面という意表を付いた冒頭。それが実は田舎の一戸建てに立て篭もっている男女で、ロバート・カーライルキャサリン・マコーマックという生活感のあるイギリス人俳優なので、真実味があります。やがて同じく立て篭もっている仲間が他にもいると分かって来て・・・と、手際良く効果的。それから彼らを襲う惨劇へと流れ込み、あっという間に一気呵成の大迫力の展開になります。


このくだりは凄い。ハリウッドの大作に比べると明らかにお金は掛かっていないのに、演出と演技だけで緊迫感満点の場面に作り上げています。


もしもこの映画に、「怖がりつつも後味爽快」とか「恐怖と笑いの緩急」などの、いわゆる「ジェットコースター映画」を求めているのであれば、観ない方が良いでしょう。それらの期待は間違いなく外れます。この映画に描かれるのは、人の善意や思いやりがことごとく悪い事態、悪い展開へと流れていく最悪の状況です。襲い掛かるのは感染者だけではありません。被害の拡大を防ぐべく、生者はおろかロンドン市街そのものも全て抹殺しようとする軍隊もそうです。笑いは無いけれども、救いも無い。これだけストイックに恐怖と緊迫感のみを前面に押し出したホラー映画が、最近はあったでしょうか。


残忍な描写だけの映画ならば枚挙にいとまがありません。いや、この映画も確かに血みどろで残忍な描写に溢れた映画ではありますが、それらは必ずしも見せ場として機能しているのではないのです。もし自分がこんな状況に居たら・・・と実感させる為の描写が殆ど。ヘリコプターの回転ローターでゾンビの群れをギッタギッタに切り刻む、超血しぶき頭手足胴体バンラバラ場面もあるにはありますが、ほぼそれ以外は絶望感を修飾する為の道具としての残酷描写です。ひょっとしたらワクチンが作れるかもと思わせるネタでさえ、救いでも何でもなく、最悪の展開、最悪の結末を迎える為にしか機能しないという徹底ぶり。これには恐れ入ります。


徹底的に恐怖に的を絞った反面、前作にあった文明批評・人間批評は薄れましたが、純粋なホラー映画として観ればこちらの方が上出来です。興味深いのは、前作では極限状況で出会った人々がやがて協力して家族を形作って行ったのに対し、こちらは本当に血のつながった家族の崩壊が描かれていくこと。姉弟を中心とした物語は、単純ですが強力です。


意外で衝撃的な展開が矢継ぎ早に起き、中盤以降は逃走劇に絞った緊迫感はお見事。その逃亡劇自体も、手を変え品を変えて工夫を凝らして単調になるのを避けていて、全く飽きさせません。恐怖や手に汗握る緊張感を求める観客にとっては、正にうってつけの映画に仕上がっています。


28週後...
28 Weeks Later

  • 2007年 / イギリス、スペイン / カラー / 104分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence and gore, language and some sexuality/nudity.
  • 劇場公開日:2008.1.19.
  • 鑑賞日:2007.1.19./TOHOシネマズ ららぽーと横浜5 ドルビーデジタル上映での上映。公開初日の土曜12時30分からの回、126席の劇場は10人程度の入り。
  • 公式サイト:http://movies.foxjapan.com/28weekslater/ 予告編、ゲームなど。ゲームはプレイヤーが感染者となって、出来るだけ多くの人を襲って感染させようという、中々不謹慎なもの。