ディスタービア


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

父親の死をきっかけに心が荒れた高校生ケイル(シャイア・ラブーフ)は、教師を殴って自宅軟禁処分となる。足首に付けられたセンサーが台所に置いてある警報装置から30メートル以上離れると、警察に通報が行くことになるのだ。ケイルは新しく越して来た隣人の美少女アシュリー(サラ・ローマー)に心奪われたりするが、やがて隣人のターナーデヴィッド・モース)の正体は連続殺人犯でないかと疑い出す。


原題の「disturbia」とは、どうやら「騒がす、不安にする」のdisturbと、「郊外族」のsuburbiaを合わせた造語のようです。


この映画、巷で言われているようにアルフレッド・ヒッチコックの名作『裏窓』(1954)の現代版かと思いきや、予想とはかなり違う映画になっていました。確かに主人公の行動範囲はほぼ自宅内と制限が掛けられているし、自宅軟禁状態になってからの日常生活描写が続くところでは、主人公同様にカメラは殆ど外に出ません。覗きと犯罪を結び付けたアイディアも『裏窓』同様です。しかし序盤はスリラーの様相を呈することはまるでなく、問題を抱えた少年の青春ものとして進んでいきます。何とか美少女に近付こうとしたりの恋模様や、スチャラカした軽い親友(韓国系というのも現代の映画らしい)が登場したりで、閉塞空間における「青春学園ドラマ」にしっかりとなっているのが面白い。学園映画というジャンルが成立しているアメリカ映画ならではと言えます。ですから基本はスリラーではなく、青春映画。それにスリリングな味付けをしていると言うのが正解でしょう。


それではこれがスリラーとして楽しめないかと言うと、そうではありません。映画は後半、青春ドラマからスリラーに転調するに至って、ヒッチコックの名作のように「部屋から出ないカメラ」という約束に縛られず、むしろ自由に動き回ります。家を出られない主人公を助けるのが、先の美少女やスチャラカ親友。カメラは彼らをスリリングに追い、しまいには『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)のような荒れたヴィデオ映像を使った迫真のシークェンスや、クライマクスの自宅以外での死闘へと繋がって行くのです。


そのクライマクスでは『ブレア・ウィッチ〜』だけではなく、『ポルターガイスト』(1982)を彷彿とさせる場面まで登場し、ちょっとしたホラー映画にさえ変貌するサーヴィス振り。映画ファンへの目配せが楽しい。


足首に付けられたセンサーも、前半では家から出てはいけないという足枷を設定する為の小道具だったのに、後半では助けを求める為に家から出て警報を鳴らさなくてはいけないという、スリルを盛り上げる小道具へと変貌します。ヴィデオカメラの使い方等も含めて、小道具の使い方は中々のものです。


主人公を演じるシャイア・ラブーフ君は等身大の青年を好演しているし、ケイト・ブランシェットを若く色っぽくしたようなサラ・ローマーも魅力的。どちらも演技力抜群とかではなく、映画の身の丈に合っているという意味で好感が持てます。キャリー=アン・モスは母親役。『ゾンビーノ』(2007)といい本作といい、『マトリックス』3部作のトリニティも母親役が似つかわしくなりました。


難点を言うと、僕には幾つかの批評にあるような「父親を失った青年の成長物語」とは受け取れませんでした。父親の死は飽くまでも主人公を自宅軟禁状態に置く為の、しかも観客の反感を買わない為の単なる理由付けに見えます。


とまれ『ディスタービア』は小味の効いたスリラーとして掘り出し物となっています。


ディスタービア
Disturbia

  • 2007年 / アメリカ / カラー / 104分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 on appeal for sequences of terror and violence, and some sensuality.
  • 劇場公開日:2007.11.10.
  • 鑑賞日:2007.11.18./TOHOシネマズ ららぽーと横浜10 ドルビーデジタル上映での上映。日曜昼12時30分からの回、105席の劇場は30人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.disturbia.jp/ 予告編、スタッフ&キャスト紹介、プロダクション・ノート等。音楽やデザインで不安を煽る。