グラインドハウス


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


Grindhouseとは、B級エログロ俗悪映画をぶっ続けで2本立て3本立て上映していた場末の映画館を指すそうです。繰り返し上映していた為に、フィルムは退色が激しく傷だらけ。僕が観た8日間限定公開の『グラインドハウス U.S.A.公開バージョン』は、ロバート・ロドリゲスクエンティン・タランティーノのそれぞれの長編『プラネット・テラー』及び『デス・プルーフ』を連続上映し、冒頭及び長編の間に架空の映画予告編を挟んだもの。無論、架空映画の予告編もエログロばかり。一般には諸般の事情により、長編2本は『デス・プルーフ in グラインドハウス』及び『プラネット・テラー in グラインドハウス』としてバラバラに上映されるのですが、ぶっ続けて観るのが本来あるべきGrindhouseの形と言えそうです。それぞれの長編には同じ役者が微妙に違う役柄を演じているものもあり、つまりは191分まるごとで1つの世界。本編ぶっ続け上映ではなくバラで公開されたら、いかがわしさ満点の予告編も無く、独特の濃い雰囲気が減ってかなり印象が違うものになるのではないでしょうか。というか、バラバラでこんなマトモでないシロモノを真剣に観るのは、作り手たちの意図とは違う筈。なにしろどちらの映画も登場する女性は、職業がゴーゴーダンサーだろうが医者だろうが、殆どホットパンツかミニスカート、タンクトップ姿の映画なのですから。


こんな映画ですから、『U.S.A.公開バージョン』は全部ひっくるめて1本として観るべき映画であり、この手の映画が好きな人ならば必見の作品となっています。


冒頭のダニー・トレホ主演の『マシェーテ』予告編(独立した映画として製作が決定したそうですが)も楽しく、続いてロドリゲス編『プラネット・テラー』が始まります。細菌兵器の漏洩により感染者が急増。感染者はゾンビとなり人々を襲い出す。襲われた者もまたゾンビとなり、田舎町であるテキサス州オースティン(ロドリゲスの本拠地)は怪異に飲み込まれていきます。さぁ、生き残った者たちは武装して突破だ!


とにかく過剰なまでの血しぶきと血みどろで、画面はぐちゃぐちゃ。高度な特殊メイクなのに出血量が異常に多いので、超残酷なのに笑えます。もっとも、笑えるのはこの手の映画に耐性のある人でしょうが。


極端な状況に極端な人物造形、極端な描写。画面も色褪せたり傷だらけだったり、時にはリール1巻がそのまま消失して、いきなり話が飛んだり。SF あり、ホラーあり、ゾンビあり、アクションあり、ラヴ・ストーリーあり、兄弟愛ありの何でもありな映画は、過去のB級ジャンル映画へのオマージュも満載したマンガちっくな世界そのもの。ロドリゲスはやりたい放題しています。シリアス・コミック調の『シン・シティ』(2005)という自身のキャリア最高の力作がある一方、おふざけコミック調のこちらもやはりキャリア最高作となりました。どちらも共通点はきちんとした構成がされた脚本。ぶっ飛んだ展開ながらも山場が用意されており、最後まで笑って楽しめます。監督が自らの資質に忠実に撮り上げた作品を眺められるのは、観客としての愉しみ。その一方、ロドリゲス作品に常につきまとう「軽さ」も全開なので、観ている間は面白くとも印象には残らないという欠点もあります。が、Grindhouse映画としては、これもまた正しい姿なのでしょう。


ゴーゴーダンサーの泣き虫ヒロイン役、ローズ・マッゴーワンが最高です。好演しているし、役柄も強烈。いや、好演といっても特に演技力抜群とかではありません。ルックスも含めて、けれんたっぷりな作品世界にぴったりなのです。これは彼女の代表作になることでしょう。マイケル・ビーントム・サヴィーニなどの脇役陣も、役柄に合ったものでした。


ゾンビ映画の終了後には、またもや笑える予告編が3本。意外な大スターの如何にも彼らしい超大袈裟演技の後は、ご丁寧にも飲食店の宣伝を挟み、タランティーノ編『デス・プルーフ』の始まりです。運転している自分は決して死なない耐死仕様(Deth Proof)の車で女性たちを血祭りに上げる、狂ったスタントマンが悪役の一編です。


あちらが如何にもロドリゲス風ならば、こちらはまた如何にもタラ風。主だった登場人物はほぼ女性ばかりで、全編の殆どをガール・トークで占めています。車での移動中や食事中の延々続く会話場面は、タランティーノの処女作『レザボア・ドッグス』(1992)を思い出させるし、映像も彼女らのお尻と生脚ばかり追い掛けていて、タランティーノも趣味前回でやりたい放題。それが親友同士の気軽な会話劇が中盤のえらいショッキングな場面で映画は文字通り切断され、いきなりホラーになります。


じゃぁ、この後ホラー映画に転調するのかというとさにあらず。またもやガールトークが延々と続き、つまりはタラらしくダラダラした会話が続く映画という訳。これを楽しめるかどうかで、面白がるか退屈がるか、かなり観方が分かれるでしょう。僕は結構楽しめましたが、ツラい人には本当にツラいかも。少なくとも画面への求心力が削がれる小さなテレビで観る映画ではありません。このダラダラを笑っていると、これまた映画は生々しいカーチェイス劇へと変身します。


60セカンズ』(2000、台詞にも出て来ました)や『ワイルド・スピード』(2001)などといったCGで加工した昨今のニセカーチェイス映画と違い、こちらは本当に人が車を運転して、それをカメラが追うもの。1970年代に流行った映画そのものな訳ですが、この映画が面白いのは、後半さらにはいつのまにかラス・メイヤー映画の世界になってしまうことです。ワルを制裁する女たちの逆襲だ!元ネタを知らなくとも御心配無く。爆笑に次ぐ爆笑に追い討ちを駆ける、さらなる大爆笑のラスト。映画ならではの愉しみ。映画ならではの与太。タランティーノは大長編よりも、こういった小品の方が良いのではないでしょうか。これもまた監督が自分の資質に忠実に撮った作品。タランティーノの代表作に入れても良い好編となりました。


活き活きとした女優陣も良く、特に本人役のスタントウーマン、ゾーイ・ベルが大活躍。手に汗握るスタントもさることながら、自然な台詞回しも楽しい。肩の力の抜けた小さな映画に合った、肩の力の抜けた演技の幸福な結婚。そして特筆すべきは珍しく悪役のカート・ラッセル。前半のクールな悪役も良いのですが、後半の爆笑の連続は彼の演技によるところが大きい。タランティーノはヴェテラン・スターから新たな魅力を引き出しました。


映画はどちらも古びた1970年代映画を模したルックスですが、携帯電話も登場するし、9.11.などの最近の時事ネタも取り込み、CGI特撮やメイクにも力を入れた最新版。よって製作規模も含めて、本来のチャチなGrindhouse映画とは違う筈なのですが、今や中堅どころとなった個性派監督作品に、スターたちの嬉々とした快演も楽しむのが筋です。


これはやはり、好きモノにとっては必見の映画です。


グラインドハウス
Grindhouse

  • 2007年 / アメリカ / カラー / 191分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong graphic bloody violence and gore, pervasive language, some sexuality, nudity and drug use.
  • 劇場公開日:2007.8.22.
  • 鑑賞日:2007.8.26./TOHOシネマズ六本木スクリーン2 ドルビーデジタル上映での上映。日曜朝9時30分からの回、369席の劇場は7割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.grindhousemovie.jp/デス・プルーフ』と『プラネット・テラー』の紹介、限定公開に関するタランティーノからのメッセージ動画など。