リトル・チルドレン


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ボストン郊外の住宅地。専業主婦のサラ(ケイト・ウィンスレット)は育児を義務感だけで行う鬱屈した日々を過ごしていた。ブラッド(パトリック・ウィルソン)は、ドキュメンタリ製作者の妻(ジェニファー・コネリー)の稼ぎのもと、育児と家事をしながら司法試験合格を目指していたが、既に試験への情熱は薄れていた。幼児性愛者のロニー(ジャッキー・アール・ヘイリー)は刑期を勤めて、自分を溺愛する母親(フィリス・サマーヴィル)の住むこの街に戻って来た。ブラッドの友人である元警官のラリー(ノア・エメリッヒ)は、ロニーを糾弾するビラ配りや拡声器を使っての嫌がらせをする。出会ったサラとブラッドは、互いの鬱屈を晴らすかのように関係を結ぶようになる。


長編監督デヴュー作の前作『イン・ザ・ベッドルーム』(2001年)での堅実な話運びを見せ、役者たちから素晴らしい演技を引き出したトッド・フィールドは、第2作の本作『リトル・チルドレン』でさらに成長を見せます。元々役者だからというのもありましょうが、素晴らしい演技を引き出す才能はそのままに、加えて全編にユーモアを漂わせることに成功しました。設定だけみると深刻なのに。


タイトルの「小さい子供たち」とは、大人になり切れない大人たちのことを示しています。誰でも子供時代もしくは若い時代に思い描いていた未来の自分像。それと現在の自分の差に、「こんな筈ではない、自分はもっと幸せになれる筈だ」と漠然と感じつつも、特に何をするのでもなく、その意識に埋没していく日々。


情熱的な文学少女だったサラは、自分に無関心な夫と子育てに追われる毎日に嫌気が差しています。まずはアメリカ人役を演じるケイト・ウィンスレットにびっくりします。髪はボサボサ、服装も気にしない。その彼女が不倫=恋で魅力的に様々な表情を見せるようになっていきます。日常を感じさせながらもどこか浮世離れしている個性が上手く生かされていて、元々上手い女優ですがこれは会心の演技でしょう。


ブラッド役パトリック・ウィルソンは、劇中で「プロム・キング」と渾名される役。顔付きも良いし、身体だって引き締まって筋肉質。金髪に碧眼、絵に描いたような典型的なアメリカ人ハンサムです。実は妻の尻に敷かれ、弁護士を目指して受験しつつも既に2回落ちていて、今年はもうやる気も無い。図書館での勉強を放り出し、友人に誘われて深夜のアメフト練習に参加し、人妻サラとの不倫に溺れ、最後も・・・。要は主体性が無く、自分が何をやりたいのかも分からない。痛い。実に痛い役です。


50歳近いロニーは自分と同世代の女性にまるで興味が無く、幼女にしか何も感じない幼児性の持ち主。その原因は母親の溺愛にあろうと暗示しますが、映画はこの親子を単なる好奇心や蔑みではなく、それぞれを1人ずつの人間として描いています。


それがこの映画の基調となっていて、しかも可笑しみを持って描かれています。それはまず、サラがアダルトサイトを映しながら女性の下着を頭に被って自慰にふける夫を目撃する場面などのように、結婚生活を基準に置いた視点からすると悲惨な状況にも関わらず、思わず笑ってしまう描写に象徴されています。サラとブラッドの関係もそう。まるで高校生のように恋に胸ときめかせ、肉欲に溺れていく姿がかなり面白く描かれています。いや、描写はポルノチックなまでにかなり露骨だし、世間で言う「不倫」なのだからシリアスな設定に違いない。ですが、余りに露骨で大胆な体位をいきなり見せつけるので、「あはは、とうとうヤッちゃった」という感じでどこか可笑しい。


そう、映画全体を貫くタッチは、可笑しくて哀しい。優しくて痛い。


大人になり切れない大人は、こうも滑稽なのか。


トッド・フィールドは『イン・ザ・ベッドルーム』の突発的なサスペンス演出の片鱗も見せてくれ、堅実ながらも意外にカラフルです。ロニーが公営プールに現れてパニックになる描写など、平穏な日常がいきなり破壊される緊張に満ちた描写は見事だし、それを体現したジャッキー・アール・ヘイリーも素晴らしい。


登場人物たちは終盤でそれぞれの選択をします。が、その先どうなるのかは誰にも分かりません。そこでナレーターは語りかけます。


You couldn't change the past. But the future could be a different story. And it had to start somewhere.(過去は変えられない。だが、未来は違うものになる。一歩踏み出さなくては。)


希望を持とうではないか、迷える子供たちよ。


リトル・チルドレン』は、現代を描いた多面的なドラマ/コメディとしてお勧めの佳作です。


リトル・チルドレン
Little Children

  • 2006年 / アメリカ / カラー / 137分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong sexuality and nudity, language and some disturbing content.
  • 劇場公開日:2007.7.28.
  • 鑑賞日:2007.8.8./Bunkamuraル・シネマ1 ドルビーデジタル上映での上映。水曜19時30分からの回、150席の劇場は30人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.little-children.net/ 予告編、スタッフ&キャスト紹介、スタッフ&キャスト・インタヴューなど。