ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

魔法学校ホグワーツの5年生となったハリー(ダニエル・ラドクリフ)は、人間界で魔法を使ったとして魔法界追放の危機に立たされる。復活したヴォルデモート卿(レイフ・ファインズ)のせいだと証言したダンブルドア校長(マイクル・ガンボン)のお陰で難を逃れたハリーだったが、ダンブルドアは魔法大臣の座を狙うが為の言動ではないかと魔法省は勘繰り、防衛術の先生としてアンブリッジ(イメルダ・スタウントン)を送り込む。軍勢を整えつつあるヴォルデモートに対抗すべく、ハリーはロン(ルパート・グラント)やハーマイオニーエマ・ワトソン)らと共に、ダンブルドア軍団を結成し、魔法の特訓を始める。


字幕翻訳担当は戸田奈津子でシリーズは統一されていますが、何と今回は『子連れ狼』『実験人形ダミー・オスカー』などで知られる劇画作家・小池一夫の登場です。というのも、ホグワーツの不思議系少女ルーナの台詞が「そうなンだ」などと、「ん」が「ン」になっていたから。


などと冗談を言って明るくしたくなるくらい(いや、誰のアイディアで小池語になっていたのかは知りたいのですが)、本作は物語も雰囲気もすっかり闇に覆われています。その中心にあるのがハリーの孤独感です。執拗に描かれる孤立は、もはやいじめに等しい。冒頭の事件により裁判沙汰となったハリーの受難は、マグルの僕から見ると余りに理不尽。裁判の裏には魔法省の思惑があったとは言え、観客に対する説得力の点では疑問が沸きます。つまりはこれは原作を既読しているのが前提の映画なのではないか、と。


いつものように新学期から1年の終わりまでを描く映画は、盛りだくさんの粗筋を追うのに忙しい。結果的におざなりな描写も目に付きます。何の伏線もその後の影響も無い、ハリーのキス場面でさえそう。ハリーの孤独感と孤立こそ描かれ、それ以外の感情の起伏が描かれていない為に、キスに何の意味があったのか、映画のみ観る限りでは全く分かりません。長大な原作を2時間強の映画にまとめる無理が出たようです。


このあおりを食ったのが名優を揃えた脇役陣。ゲイリー・オールドマンアラン・リックマンデヴィッド・シューリスマギー・スミスマイケル・ガンボンらの影が薄い。エマ・トンプソンなんかどうでも良い役だし、ハグリット役ロビー・コルトレーンも初登場のヘレナ・ボナム・カーターも出番が少ない。これだけの名優を揃えながらも映画に厚みを与えることなく、単なる顔見世に終わってしまったのは勿体無い。


対照的に生き生きとしているのが、ドローレス・アンブリッジ先生役のイメルダ・スタウントン。すっかり大作ホラー映画と化した本編にて、コミカルかつ憎々しい役で一番目立っています。ピンキーな衣装に嬉々とした意地悪振りが面白い。


監督はシリーズ初登板のデイヴィッド・イェーツ。テレビ出身だからなのでしょうか、映画らしい絵作りに乏しく、クライマクスの魔法合戦もジェダイとシスの闘いを想起させるオリジナリティの欠如がつまらない。


思春期を迎えて内省的になったハリーの、大人への成長の恐怖を描いたとも取れるこの映画。終幕のウィーズリー兄弟大活躍という嬉しいご褒美があるものの(ここでかろうじて学園ものとして及第点)、もはや子供向け映画ではありません。ハリーの成長に合わせて対象年齢層も上がって来ましたが、情緒不安定気味で子供と大人の中間なのは主人公だけではなく、映画そのものも同様。難しい綱渡りに挑戦して、かろうじて片手で掴まっている出来栄えとなりました。


ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団
Harry Potter and the Order of the Phoenix