クィーン


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1997年8月30日。元王妃のダイアナが突然この世を去った。英国国民が悲嘆に暮れる中、王室は既に民間人となったダイアナについて何のコメントも出さなかった。冷淡だと反発する国民感情が激しく渦巻く中、飽くまでも伝統にのっとり毅然とした態度を示し続ける女王エリザベスII世。首相に就任したばかりのトニー・ブレアマイケル・シーン)は、事態を収めるべく国民と王室の橋渡しをしようと画策するのだが。


ダイアナ妃の突然の死去に揺れる英国王室を描いたこの映画のサイドストーリーは、トニー・ブレア首相物語でもあります。


就任直後、若さと活力と希望に溢れ、絶大な人気を誇ったブレアが一番輝いていた時期。ダイアナ死去に関して冷淡だった女王に積極的に働きかけ、王室不要論まで噴出して人気が失墜しつつあった王室の権威を保ったことにより、さらに国民の信頼を勝ち得たのです。ブレアを演ずるマイクル・シーンも庶民派の首相を等身大に演じていて好演しています。


しかし映画を観ると、ブレアでさえ女王の貫禄の前ではまだまだヒヨっ子でさえあったことが分かります。


エリザベスの気品、威厳、そしてユーモア。元々ヘレン・ミレンは上手い女優でしたが、単なるそっくりさんショーではなく、古式ゆかしいとでも呼ぶべき体質に芯から染まっている人間の揺れを克明に演じ、全く素晴らしい。その優雅で時に辛らつな台詞回しも見もの。女王であり母である存在そのものと成りきっています。


映画の求心力は紛れも無くミレンですが、暴露趣味に走ることなく冷徹に、でもユーモアを忘れない人間観察が鋭い脚本と演出も褒め称えたい。


映画の冒頭は事故の起こる3ヶ月前、ブレア就任の日。初めて1対1で女王に謁見するブレアの緊張が伝わって来ます。しかしながら首相就任の承認は呆気無く下され、長年の歴史を持つ王室の前では首相たるもの微々たる存在でしかないとされます。


ピーター・モーガンによる緊迫感溢れる脚本は、辛口で面白い台詞の宝庫です。女王とブレアの二度に渡る謁見場面、ダイアナが死んだことを知ったフィリップ殿下が思わず吐く台詞、王室廃止論者のブレア夫人やブレア陣営のスタッフ達の容赦無い王室批判。加えて様々な思惑が走る王室及び政府機関の内情を具体的に描き、内幕ものとしても十分面白い。関係者からのかなり綿密な取材に基づいているそうですが、どこまでが本当なのか、どこまでが作り話なのか分かりません。


主眼は英国の母たる女王の姿を浮き彫りにすること。英国特有の階級社会意識を描くこと。そこから全くブレが無いのは頼もしい。


スティーヴン・フリアーズらしく、奇をてらうことなく着実に落ち着いた手さばきは見事なものです。がっちりと組み立てられた脚本、優秀な俳優陣を得た足腰強い演出は、地味ながらも最後まで全く飽きさせません。王室を描くときの堅牢でありながら華麗な撮影と、ブレアを描くときの粒子の荒れた手持ち撮影など、何気に映像でも描き分けを行っており、細かい配慮が伺えます。


『クィーン』は見応えのある秀作としてお勧めの映画です。


[[クィーン]]
The Queen

  • 2006年 / フランス、イギリス、イタリア / カラー / 104分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for brief strong language.
  • 劇場公開日:2007.4.14.
  • 鑑賞日:2007.6.19./シネアミューズCQN シアター3 ドルビーデジタル上映での上映。火曜19時45分からの回、60席の劇場は15人程度の入り。
  • 公式サイト:http://queen-movie.jp/ 予告編、英国及び王室に関する豆知識集、ヘレン・ミレン・インタヴュー、フォトギャラリー等。