ホリデイ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ロンドンの新聞社に勤務するアイリス(ケイト・ウィンスレット)は、片思いしている同僚の婚約発表に傷心ぐさり。L.A.で映画の予告編製作会社を経営するアマンダ(キャメロン・ディアス)は、同棲相手の浮気に激怒してケンカ別れ。そんな2人はホーム・エクスチェンジ・サイトで知り合い、2週間限定で互いの家を交換することに。アイリスはハリウッド黄金期を知る92歳の元脚本家アーサー(イーライ・ウォラック)と、映画音楽作曲家のマイルズ(ジャック・ブラック)と知り合い、心を癒されていく。一方のアマンダはアイリスの兄グレアム(ジュード・ロウ)と恋に落ちるのだが。


日本では馴染みの無いホーム・エクスチェンジを使ったロマンティック・コメディ。『ハート・オブ・ウーマン』(2000)、『恋愛適齢期』(2003)と楽しませてくれた、脚本家&監督のナンシー・マイヤーズらしい、アイディアからして面白い映画になっている。


この人の監督としての優れた特徴として、スターの魅力を引き出す才能が挙げられる。例えば『ハート・オブ・ウーマン』のメル・ギブソンを思い出してみよう。あるいは『恋愛適齢期』のダイアン・キートンジャック・ニコルソンを。本作もしかり。キャメロン・ディアズがお得意の勝気だけど心に傷を抱えて素直になれない、などという如何にもな役を演じていても、手垢が付いた感など観客に抱かせない。これは重めのドラマが多いケイト・ウィンスレットジュード・ロウに軽めの演技をさせたり、あるいはいつも騒々しく熱いジャック・ブラックに、個性を殺さずとも暖かい役を演じさせたりなど、全体の配役と演技プランがこの手の映画に相応しいものとなっているからだ。こういった辺りはコメディの分かっている作者ならでは。安心して観ていられる。


面白い台詞も多いし、”ナプキン・マン”の場面など楽しくも温かな場面も少なくない。片方は映画の都が舞台ということで、映画ネタやカメオ出演の大スターなど、映画ファン向けお楽しみもあちこちに散見される。


暖かなL.A.と雪の振るロンドン郊外というロケーションの対比も、定番ですが画面栄えする。クリスマス休暇を舞台にした映画なのだから、どうせならば日本での劇場公開もクリスマス・シーズンにすれば良かったのに。


本作はマイヤーズの過去の2作同様にテンポの悪さが目立つ。丁寧なのは長所なのだが、それが足を引っ張ってこの手の映画にしてはリズムが悪い。主役2人の女性のエピソードを並行して描くからとはいえ、この手の映画で135分は長過ぎてややこってりした印象が否めない。あと20分は短くして、さらり手際良く小ぢんまりと仕上げた方が、かえって心に残る映画になったのではないでだろうか。


またマイヤーズほどの大ヴェテラン脚本家なのに、老脚本家の扱いが中途半端など、肝心の箇所で食い足りないのも気になる。アイリスとアマンダの恋が単純に並行して描かれる訳では無いプロットは、予想外で面白かったのだが。


何のかんの言っても、やはりこういった映画はスターを眺めて楽しむべきだろう。コメディ慣れしているディアスはともかくとして、他の役者たちは新鮮な魅力に溢れている。『エターナル・サンシャイン』(2004)で新境地を開いたウィンスレットは、あちらほど弾けていなくとも、やや軽めの演技もイケることを証明したし、ジュード・ロウはハンサムで心優しい男性を軽妙に演じている。いつも歌うジャック・ブラックは・・・やはり歌わずにいられないのも期待通り。それでも老イーライ・ウォラックの洒脱さには、誰も勝てない。場をさらう大袈裟な熱演も無いのに、出ていると彼に仄かなスポット・ライトが当たっているのが分かる。スターたちから注目を横取りしようなどとする邪心を感じさせず、自然と目が行ってしまう。『荒野の七人』(1960)の山賊リーダーなど、西部劇の卑劣な悪役が印象的だった俳優も、すっかり枯れて良い感じになった。


『ホリデイ』は短所も多い映画ではあるが、楽しめる要素も多い作品である。


ホリデイ
The Holiday

  • 2006年 / アメリカ / カラー / 138分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sexual content and some strong language.
  • 劇場公開日:2007.3.24.
  • 鑑賞日:2007.3.25./ワーナーマイカル新百合ヶ丘8 ドルビーデジタル上映での上映。日曜日10時00分からの回、238席の劇場は5割の入り。
  • 公式サイト:http://www.holiday-movie.jp/ 予告編、スタッフ&キャスト紹介、壁紙ダウンロード、監督&ディアス&ロウらの来日記者会見やジャパン・プレミア採録など。