ドリームガールズ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1962年デトロイト。リード・ヴォーカルのエフィー(ジェニファー・ハドソン)、コーラスのディーナ(ビヨンセ・ノウルズ)とローレル(アニカ・ノニ・ローズ)は、トリオでドリーメッツと名乗って日々オーディションに参加し、成功を夢見る日々を過ごしていた。彼女たちに目を付けたのは、音楽業界でのし上がろうと虎視眈々とチャンスをうかがっていた自動車ディーラーのカーティス(ジェイミー・フォックス)。彼は地元スターのジミー(エディ・マーフィ)のバックコーラスとしてドリーメッツを付けるよう画策し、ドリーメッツとカーティスは音楽業界での一歩を踏み出す。やがてドリーメッツはリードをルックスの良いディーナに、肥満気味のエフィをコーラスにして、ザ・ドリームズとして一本立ちする。彼女たちは熱狂的に迎えられるが、成功には喪失も伴うのであった。


何て辛らつな配役なのだろう。あと一歩の成功目前で失格者の烙印を押されるジェニファー・ハドソン。落ち目のスターはエディ・マーフィ。ルックス重視で個性と深みの無い歌姫にビヨンセ。これが実像と言うつもりは無いけれども、実生活とどこかダブる配役に、脚本・監督のビル・コンドンの皮肉な視線を感じてしまう、とするのは言い過ぎだろうか。


ダイアナ・ロスシュープリームスと、彼女たちが所属していたモータウン・レコードの成功になぞらえた、1981年にブロードウェイで初演を飾ったミュージカル名作の映画版は、豪華という言葉がまことお似合い。スピーディな展開をモータウンサウンド風の楽曲で埋め尽くし、さらに煌びやかな衣装と熱狂的ステージの数々、そしてスターのオーラがあるのだから。特に実際のスターであるエディ・マーフィビヨンセ・ノウルズのスター役起用は、映画に格とリアリティを与えている。


話題のジェニファー・ハドソンは素晴らしい歌声に歌唱力。これが映画デヴューとは思えない情感の豊かさだ。心情の殆どを歌で表現するという、元々の才能を使う幸運はあるものの、その存在感は否応にも目を引く。これはエフィの成功と没落、再生を描いた、彼女が主役の映画と言っても過言ではない。特に舞台版でも話題だったという『And I Am Telling You I'm Not Going』の場面は、映画版のハイライトでもある。必死にあがくエフィの心情が文字通り迫る会心の出来映え。但し彼女は全編熱唱過ぎて、僕にはいささか濃過ぎたが。


エディ・マーフィには驚かされた。パワフルでソウルフルな歌声とパフォーマンスには圧倒される。ソウルフルな熱唱は濃くても濃過ぎず、どこか軽やか。着心地の良い服をまとっているかのような、ヴェテランならではのゆとりが感じられた。結構歌っているのだが、もっともっと聴きたいと思わせてくれた。


ジェイミー・フォックスは野心満々、大衆の求めるものを鋭く嗅ぎ分ける嗅覚と商才を持ち合わせる男を好演している。非情でありながら人間臭い。こういうシャープな役は得意とするところだろう。歌声も数曲披露してくれて、ファンとしては満足だ。


こうなるとビヨンセの印象がやや霞みがちになるのはやむを得ない。終盤に『Listen』という見せ場はあるものの、周囲に流されるディーナ役は物語上は純然たる主役とは言いがたい役なのだから。それでも輝くスター然とした物腰と歌唱力を楽しませてもらった。


映画はバックステージものの王道を行くかのような展開で、そこに人種差別を重要な要素として滑り込ませているが、社会派的要素の投入は娯楽映画としての範疇を外れない匙加減。ここにビル・コンドンのバランス感覚を感じる。成功するに従って自分本来を見失うテーマも分かりやすい。しかし衣装や髪型、楽曲のアレンジなどだけで時代の流れを伝えるスピーディな演出は、観ていて楽しいもののややせっかち。皮肉たっぷりだったコンドンの脚本作『シカゴ』(2002)に比べても、深みの点では及ばない。


せっかちと言えば最近のミュージカル映画はやたら細かいショット繋ぎが目立つが、少なくともこの映画ではそれがマイナスになっていない。冒頭のオーディション場面、白人に曲を盗用されて怒ったカーティスらがのし上がる様を描く『Sttepin' to the Bad Side』の高揚感、ザ・ドリームズのメジャー・デヴューとなる『Dreamgirls』の煌びやかさ、バラードに嫌気が差してジミーが急にラップに変更する『Jimmy's Rap』の迫力などなど。『シカゴ』と違ってダンスは余り重視されておらず、歌唱ステージそのものが前面に出ているのだから、細かい編集も気にならなかった。


ミュージカル映画の宿命として、音楽に興味の無い人には左程受け付けないかも知れない。しかしダイアナ・ロスシュープリームスの、実際の写真やアルバム・デザインを模した数々のアートで溢れかえる映像は、元のネタを知っていれば知っているほどに楽しい。モータウンサウンド好きな人には余計に堪らないことだろう。


『シカゴ』や『ムーラン・ルージュ』(2001)ほどの熱狂的ファンは生み出さない可能性はある。ビル・コンドン自身の作品としても、鋭い人間描写が秀逸だった『ゴッド・アンド・モンスター』(1998)や『愛についてのキンゼイ・レポート』(2004)に比べて奥行きの浅さが目立ち、彼のベストとは言ない。それでも『ドリームガールズ』は娯楽映画としては満点に近い出来映え。音と映像の洪水に身をゆだね、観ている間は思わず足でリズムを取ってしまうのだ。


ドリームガールズ
Dreamgirls

  • 2006年 / アメリカ / カラー / 130分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for language, some sexuality and drug content.
  • 劇場公開日:2007.2.17.
  • 鑑賞日:2007.2.24./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1 ドルビーデジタル上映での上映。土曜18時50分からの回、452席の劇場は30人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.dreamgirls-movie.jp/ キャスト&スタッフ紹介、壁紙、写真集、予告編、「あなたの夢をかなえまSHOW」コーナーなど。