レディ・イン・ザ・ウォーター


★film rating: C
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

心に傷を持つアパートの管理人クリーヴランドポール・ジアマッティ)は、とある晩にプールで水の精(ブライス・ダラス・ハワード)を発見する。彼女はストーリーと名乗り、世界を救うことになる作家を探しているという。クリーヴランドはアパートの住人らと共に、作家探しをすることになるが・・・。


M・ナイト・シャマランの新作は、作家性が露わになった作品である。ハリウッドでヒット作を連発するにつれて独自の作風の影が潜めていく監督が多いのに、ここまで表面化するのは珍しい。その点では注目すべき作品と言えよう。


その一方で、遂に駄作を発表したか、という感も強い。前作『ヴィレッジ』(2004)から予兆はあったが、とうとう来るべきものが来てしまった。


証拠も無いのに、何で住人たちはストーリーを水の精だと簡単に信じてしまったのか。何で謎解きの解明が、あのようにいとも簡単に出来たのか。プロットはほころんでいるのに、作り手は繕うことすらしていない。傲慢にも。


シックス・センス』(1999)や『アンブレイカブル』(2000)などのシャマラン作品を思い出してみよう。プロットやオチも含めて過去の映画の焼き直しが多かったにも関わらず、語り口の上手さで楽しめる作品となっていた。そこにはやや強引な話運びであっても、サスペンスに対する鋭い嗅覚と、ディテールに対する目配り、不特定多数の観客に対する気配りがあった。それが本作では現実離れした強引な展開すらあれど、目配りも気配りも既に揮発している。底に残ったのは見るも無残なかすだけ。シャマランは嗅覚すら失ってしまったようだ。僕は現実感も緊張感も無いスクリーンにまるで入り込めずに置いてかれ、ただただ画面を眺めるだけになってしまった。


しかし先に述べたように、露わになった作家性の点では面白いことになっている。つまりは理屈ではなく、とにかくストーリー(物語)を信じろ、と。自分の繰り出す物語をひたすら信じれば良いのだ。信じない映画評論家なぞ、犬に食われてしまえ。


劇中で作家役を演ずるのは、シャマラン自身。ボブ・バラバン演ずる映画評論家の悲惨な末路とは対照的な扱いに、メッセージだけに飽き足らず、元々出たがりのナルシシズムが直接的に出ていて、ある意味あっぱれ。言いたいことをこれだけ言えれば、映画監督としては本望かも知れない。


但し映画監督の意思表明だけの映画には、観客の入り込む隙間が小さいのも事実である。


レディ・イン・ザ・ウォーター
Lady in the Water

  • 2006年 / アメリカ / カラー / 110分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some frightening sequences.
  • 劇場公開日:2006.9.27.
  • 鑑賞日:2006.11.2./ワーナーマイカル・シネマズ新百合ヶ丘7 dts上映での上映。平日木曜18時00分からの回、170席の劇場は5人程度の入り。
  • 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/ladyinthewater/ 予告篇、スタッフ&キャスト紹介、壁紙ダウンロード、シャマラン作の絵本紹介など。絵本の絵は、映画でクリーチャーをデザインしたマーク・クラッシュ・マクリーリー。