ワールド・トレード・センター


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

9.11.の同時多発テロによって大火災となった世界貿易センタービル。そこで救命活動を行うべくビルに入った港湾警察官たちは、崩壊したビルの生き埋めになってしまう。生き残ったマクローリン巡査部長(ニコラス・ケイジ)と新米巡査ヒメノ(マイケル・ペーニャ)は、瓦礫の下敷きで身動きが取れないながらも、互いに必死に声を掛け合って生き延びようとする。


オリヴァー・ストーンの新作映画は、確かに一見すると彼らしさに欠ける気がする。声高に、挑発的に、アメリカ批判をする訳でもなく、また、ここ10年くらいのストーン作品にあった神経症的編集も見当たらない。映画はいつものパワフルで押し付けがましいオリヴァー・ストーンではなく、正攻法で感傷的なハリウッド映画の王道を行くかのよう。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)以降の目まぐるしい神経症的編集はまるで無く、落ち着いた映画になっている。元々ストーリーテリングはしっかりしている監督なので、派手な意匠が無くともきちんと観られるのはさすがだ。


生き埋めになった警官たちの実録生還物語は、彼らの家族への想い、安否を気遣う家族の想いなどが交錯していく内容である。よって感傷的になるの致し方ない。但し、中盤から後半に掛けては物語の進展ではなく、心情描写中心になっており、その描き方が余り上手でない為か、やや退屈を誘われた。色々と工夫はされているものの、ストーンに繊細さを求めるのは無理なのだろう。終幕の救助場面は盛り上がるが、それでも派手さはない。旅客機がビルに突っ込む瞬間さえ描かれていないのだ。全体に意図的なまでに派手さが排除されているのが特徴でもある。


瓦礫の下に閉じ込められた状況の描写では、主人公らが身動き取れないので、落ちてくる瓦礫や火の玉にいつ当たるかと冷や冷やさせられる。熱で弾切れになるまで勝手に暴発する拳銃なども恐怖の対象となっている。先の見えない閉所での恐怖という点で、ジャングルの闇を描いていた『プラトーン』(1986)の同工異曲とも言えよう。


この映画はテロやイラク戦争をまるで扱わず、大多数の死者ではなく生き残った者にのみ焦点を当てた作りの上に感傷的。となれば当事者でない日本人としては、イラク戦争への違和感に重ねて批判の声を上げる向きが少なくないのも理解は出来る。ただこの映画はあの悲劇を大局的に描くのではなく、災害に遭った時の個人の心情と行動との観点から、極小的に描いている点に価値があるのだ。


寡黙なニコラス・ケイジと、『クラッシュ』でも良かった饒舌なマイケル・ペーニャの警官2人は取り合わせが良かったし、彼らの妻たちを演じるマリア・ベロマギー・ギレンホールも良かった。久々にメジャー映画で見たスティーヴン・ドーフは儲け役。


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