サイレントヒル


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

夢遊病の幼い娘シャロンジョデル・フェルランド)が呟く謎の言葉、「サイレント・ヒル」。母親のローズ(ラダ・ミッチェル)は、それが30年前に大火で壊滅した町の名前だと知る。地図に無い町に何か手掛かりがあるかとサイレント・ヒルに向う母娘だが、濃霧に覆われた町でシャロンが消えてしまう。必死になって娘を探すローズ。しかし町には恐ろしい秘密が隠されていたのだ。一方、夫のクリストファー(ショーン・ビーン)も、ローズらの後を追う。


和製ゲームの映画化の1本は、実はゲームに相当に忠実な雰囲気を持った作品となcつた。設定だけ借りたアクション・ホラーとなった『バイオハザード』(2002)とは違い、細部をも映画に置き換えている。ゲームにあった唐突な設定、例えばいきなりパズルが登場したりするのも、この映画だと左程違和感がない。やや強引な展開も、大体は何となく理解出来ても良く分からない細部についても、不条理ホラーとして観れば余り気にならない。これも舞台となる世界観がきちんと出来ているから納得出来るのである。


原作ゲームの中で1番インパクトがあったのは、嫌悪感満点の赤錆肉世界だった。腐肉がこびりついたような錆びた鉄網で出来た「裏世界」は、暗黒と不協和音で満たされていて、そこに放り込まれるだけで緊張感が沸き起こった。霧に包まれた町がサイレンの音と共に一転しておぞましい様相を呈すに至って、プレイするこちらは怖気を振るったものである。その世界を忠実に再現したところからして、監督クリストフ・ガンズの原作ゲームへの並々ならぬ愛着が感じられる。但し舞台そのものが持つインパクトがゲームには及ばなかったのは、意外とあっさりした背景の撮り方によるものだろう。


それでも、ゲームに登場したフランシス・ベーコン風または『ジェイコブズ・ラダー』(1990)風(もっともあの映画は、ベーコンの絵画にインスピレーションを得ているのだが)の、あんなのやこんなのが実体化して、意図的に不自然な動きで登場するのを見るにつけ、ゲームという元があっても、舞台と相俟って異様な世界観を作り上げているのに感心してしまう。元々このゲームのファンだというガンズのこういったこだわりは、十分評価して良いだろう。


ガンズの様式美化された映像や、己の趣味嗜好がはっきり表れた作風は、前作『ジェヴォーダンの獣』(2001)同様に微笑ましいもの。しかし本作では演出自体が淡々としていて、もう少しテンポ良く語るべきだった。この手の映画で2時間以上は長いし、誠実であってもはったりに欠けているのが物足りない。元タランティーノ関係者ロジャー・エイヴァリーの脚本は、終幕に阿鼻叫喚の地獄絵図が噴出する舞台を用意しているが、ここももう少し盛り上がって欲しかった。クライヴ・バーカーの『ヘル・レイザー』(1987)もかくやという痛そうで派手な場面ではあるものの、変態的パワーがある監督だったら尚良かったのに、と思ってしまった。


エイヴァリーの脚本は不条理劇に徹していないところも不満だが、ヒロインの行動が説得力に欠けるきらいがある。映画が不条理ホラーでも、主人公の行動がすんなり納得いくものでないと、観客も主人公の恐怖を共有するに至らない。この映画で恐怖感が薄く感じられるのは、この欠点にもよる。ラダ・ミッチェルが熱演していても、脚本のせいで感情移入を妨げている瞬間が煩わしく感じた。


それでも悲しみと不可思議が同居するラストなど、独特の異空間と共に捨て難い場面もあり、簡単に切り捨てられない映画になっている。ホラー映画好きならば注目して良い作品だ。


サイレントヒル
Silent Hill

  • 2006年 / フランス、カナダ、日本、アメリカ / 126分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong horror violence and gore, disturbing images, and some language.
  • 劇場公開日:2006.6.10.
  • 鑑賞日:2006.6.10./ワーナーマイカル新百合ヶ丘3 ドルビーデジタル上映での上映。公開初日の土曜21時20分からの回、237席の劇場は9割の入り。
  • 公式サイト:http://www.silenthill.jp/ キャスト&スタッフ紹介、予告篇、スクリーンセーバー、ブログなど。