インサイド・マン


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

白昼のマンハッタンの下町にて銀行強盗が発生した。強盗団を率いるのは自信に満ちて狡猾なダルトンラッセル(クライヴ・オーウェン)。彼らは人質とした銀行員と客ら全員に、強盗団と全く同じ格好をさせる。警察は交渉人としてフレイジャーデンゼル・ワシントン)らを現場に送り込むが、一方で銀行側は会長のアーサー(クリストファー・プラマー)が辣腕弁護士ホワイト(ジョディ・フォスター)に密命を授けて送り込む。様々な意図が交錯する中、フレイジャーダルトンらの行動に疑惑を持つようになるが・・・。


ニューヨーク派スパイク・リーの新作は、珍しくも純粋な娯楽スリラーだ。インド映画『ディル・セ/心から』(1998)からの歌『チェイヤ・チェイヤ』が鳴り響く凝ったタイトル・デザインからクールで、強盗発生/警察の急行と歯切れ良く導入部を演出する。これは面白くなるぞと思わせる出だしだ。


社会派でもあるリーの面目躍如は、挿入される小さなエピソードの数々だろう。人種差別の警官、雑多な人種、中東系への差別など、「娯楽」犯罪スリラーを邪魔しない程度の描写に切れがある。ここに9.11以降の同時代性が現われている。


このようにリーの作家性が出ているが、中盤以降はやや冗長に感じられるようになる。犯人側の動きが少なくなって事態がこう着状態になるからなのだが、それに釣られて映画自体のテンポも悪くなって来て、緊張感が薄れてしまうのだ。恐らくラッセル・ジェウィルスの脚本は、読む分には非常に面白いに違いない。暴力描写やアクションに頼らない、実は非常に捻ってある勧善懲悪もの、という着眼点はかなりのものだ。


しかしリーの娯楽映画監督としての呼吸は、まだまだだったようである。こう着状態でも相手の出方を伺う、緊張をはらんだ空気を画面に流すことは出来た筈。一気呵成に緊張感のあるクライマクスで息を吹き返すが、ラストの切れの悪さを観るにつけ、娯楽映画としてのツボを押さえていない感があるのだ。


それでも重量級の演技派を揃えているだけあって、画面は賑やかである。皆、個人的に贔屓の役者ばかりなのも嬉しい。出番の殆どが白マスクにサングラスという、素顔を殆どさらさない強盗団リーダー役クライヴ・オーウェンが実質的な主役だ。ずる賢い知能犯を堂々と演じていて頼もしい。刑事役デンゼル・ワシントンは軽妙で肩の力が抜けていて楽しいし、クリストファー・プラマーの老獪さも魅力的。ジョディは冷血で計算高い、野心家の弁護士役にぴったりである。惜しむらくは警官隊リーダー役ウィレム・デフォーが、余り個性を生かしていなかったこと。役柄の描き込み不足もあって、デフォーでなくても良いものとなっていた。


彼らの存在感と細かい描写によって、厚みのある娯楽映画となったのは確か。詰めの甘さも気になるが、『インサイド・マン』は観て損の無い映画である。



インサイド・マン
Inside Man

  • 2006年 / アメリカ / 129分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated R for language and some violent images.
  • 劇場公開日:2006.6.10.
  • 鑑賞日:2006.6.10./ワーナーマイカル新百合ヶ丘3 ドルビーデジタル上映での上映。公開初日の土曜18時45分からの回、237席の劇場は9割の入り。
  • 公式サイト:http://www.insideman.jp/ 予告篇&TV-CM、壁紙、フォトギャラリー、作品情報など。日比谷、新宿、川崎、大阪ではまだ上映中です。