オーメン


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

6月6日朝6時、2人の子供が生まれて1人は死んだ。ロンドン駐在のアメリカ人外交官ロバート・ソーン(リーヴ・シュライバー)は病院側の提案により、妻キャサリンジュリア・スタイルズ)に内緒で死んだ実の息子と、引き取り手のいない身元不明の赤子を取り替えた。ダミアンと名付けられた子供はすくすく育ち、数年後、彼の周囲では怪事件が続発する。謎の神父(ピート・ポスルスウェイト)は、あの子は悪魔の子だ、抹殺せよと言い寄って来る。ソーンは真相を追究しようとするが。


エクソシスト』(1973)の大ヒットの余波で作られた1976年のオカルト映画の名作は、リチャード・ドナーの歯切れ良い演出、グレゴリー・ペックリー・レミックのスター起用、アカデミー賞を受賞したジェリー・ゴールドスミスの大迫力音楽でもって大ヒットした。リメイク版の本作は、オリジナル版をほぼなぞった内容、忠実に再映画化したものとなっている。脚本家からして同じデイヴィッド・セルツァーなのから。これは想像だが、オリジナルの脚本をほぼそのまま使い、クレジットされない程度の修正を加えたものではないだろうか(ある分量以上に手を加えた人でないと、脚本家としてクレジットされない)。よって監督やキャストの技量が問われる作りともなっている。


エネミー・ライン』(2001)、『フライト・オブ・フェニックス』(2004)は未見なのでジョン・ムーアの監督振りは初めて観たが、資質的にホラー/オカルトに向いていないのではないか、と思った。脚本は謎解き中心の物語に、ショック場面を効果的に配したもの。それをムーアはドラマ部分は正攻法と言えば聞こえが良いのだが平板に、それに反してショック場面には注力して演出しているものの、どうもその資質と題材に接着感が弱く、方向性も首尾一貫していないような気がした。


派手な血しぶき場面や時折挿入される悪夢の場面などでびっくりさせる趣向となっているが、特に悪夢場面がMTV風なので、比較的オーソドックスに撮られた本編と違和感がある。本作は悪魔の子を巡るオカルト・ミステリであり、ショック場面は見せ場であっても本質ではない。殺戮描写重視で詰まらなくなった『オーメン2/ダミアン』(1978)と同じ間違いを犯している。


惨殺場面もCGを使ったりで派手になっていても、段取りの上手かったオリジナル版の方がケレン味があった。特に有名な首切断のくだりは、オリジナル版を知っていると「なるほど、こう捻ったか」と感心はするものの、やはり原典にはかなわない。


音楽を担当したマルコ・ベルトラミは実際にジェリー・ゴールドスミスに師事しており、ゴールドスミスを師匠と公言している作曲家だから、満を持しての登板だろう。しかし混声コーラスの迫力で押したゴールドスミス版を意識したのか、コーラスを殆ど使用せずにオケ中心となった音楽は、明確なメロディに欠けている。オカルトの禍々しい雰囲気を抽出していないのはムーアの意図なのかも知れないが、テーマの読み取りの浅さでは監督と作曲家は同罪だろう。エンドクレジットでゴールドスミスの楽曲数曲をメドレーで流すものの、有名な『アヴェ・サターニ』などのアレンジも原曲の良さを殺していた。


主役のリーヴ・シュライバーは良い役者だが、スターとしての魅力をグレゴリー・ペックと比べるのは可哀想。悪くないが生々し過ぎて、無味乾燥なショック描写重視の演出意図とは違う方向ではないか。これも監督の持つヴィジョンがちぐはぐだったことの証明だろう。


リメイク版『オーメン』はオリジナルに忠実な内容な不出来な生まれ変わりゆえ、オリジナルを観ていれば好事家以外は観る必要が余り無い作品だ。逆に言えばオリジナル版を知らない観客には、それなりに楽しめる作品かも知れない。

オーメン
The Omen

  • 2006年 / アメリカ / 110分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for disturbing violent content, graphic images and some language.
  • 劇場公開日:2006.6.6.
  • 鑑賞日:2006.6.11./ワーナーマイカル新百合ヶ丘3 ドルビーデジタル上映での上映。公開2日目の日曜16時40分からの回、237席の劇場は7割の入り。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/omen/ 予告篇、作品情報、「悪魔の投稿ルーム」、タブー占いなど。雰囲気盛り上げてます。