カーズ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

レーシングカーのライトニング・マックィーン(声:オーウェン・ウィルソン)は、傲慢で鼻っ柱の強い若手だ。1週間後の決勝戦を控えた彼は、ひょんなことから田舎町ラジエーター・スプリングスに放り出され、その時に誤って道路の一部を破壊してしまう。マックィーンは、判事であるドク(声:ポール・ニューマン)により器物破損の罪で道路修理の刑を受けることになる。ラジエーター・スプリングスはそばに高速が出来た為に誰も止まらずに見放された、消え行く町であったことを、やがて彼は知る。


ピクサーの長編アニメ最新作は、ジョン・ラセターの『トイ・ストーリー2』(1999)以来の監督作品でもある。ピクサーの前作『Mr.インクレディブル』(2004)に続いて、2時間弱の上映時間となっている。


人間は1人も出ない、擬人化された車だけの世界の物語は、CGIの技術力の高さを見せ付ける映像が素晴らしい。カラフルで個性的な車体の数々。ピカリと光る金属の表面。錆や汚れ。でこぼこした路面。遠景の霞み。舞う埃や空気感。こういったフェティッシュなまでのディテールへのこだわりは無論のこと、映画としてのダイナミックな表現はいよいよ研ぎ澄まされていて、CG映画業界No.1の実力を見せ付ける。冒頭とクライマクスに用意された迫力満点のレース場面や、時折見せる美しいスローモーションなど、CG以前に物語を伝える映像の使い方が抜群に上手い。各キャラクターの感情表現も豊か。表情だけではなく、タイヤを使っての感情表現など、無生物を個性的に擬人化する技術はアニメーターたちの能力の高さが伺い知れる。


映画の根幹を成すのは、ジョン・ラセターピクサー製作陣の車への愛着。情があるから無味乾燥でない、技術だけの映画になっていないのが同社アニメ作品の強みとなっていて、今作も期待通りに温かみのある作品に仕上がっている。


しかしながら、何事もスピードだけではない、もっと大切なものがあるとした脚本は、ややお説教じみている。丁寧にメッセージを伝えようとする余りに上映時間が2時間弱になってしい、テンポの弛緩を避けられなかった。でもこれも娯楽でありながらメッセージも重視したい、という作り手たちの強い意志の表れである。個性的なキャラクターたちや、ギャグやアクションによって子供達も飽きはしないだろうが、見掛けと違って大人向けの映画となっているのが、これまたピクサーらしい。


説教じみていても遊び心を忘れないのもピクサーらしいところ。せせこましさとは無縁の、ラセターのゆとりのある演出も心地良い(これが遺作となったジョー・ランフトとの共同監督)。主人公の役名がスピード狂だった往年の大スターにちなんでいるのはもちろんとして、遊び心の最たるものは名優の起用だろう。修理工場を営む老判事役(もちろん車)に、ポール・ニューマンを配したのが嬉しい。その嬉しさと役柄の意外性、そしてその意外性とニューマンの起用の意味に気付いた瞬間の嬉しさは劇場で感じてもらうとして、かつての反抗児もすっかり枯れたものの、風格が備わった声が素晴らしい。そう言えばマックィーンとニューマンは『タワーリング・インフェルノ』(1974)でも共演していたなぁ。この起用に関しては単なる遊び心ではなく敬意がこもっていて、ささやかな感動を味わった。


エンドクレジットまで笑える映画は、やや甘いものの温もりのこもった作風は十分に楽しめるもの。『Mr.インクレディブル』をせわしないと感じた方にも、是非お薦めしたい作品である。


併映される短編『ワン・マン・バンド』も素晴らしい作品。サイレント映画の技法を使った小品は、綺麗に決まった可笑しいオチに至るまで、アニメならではの秀作だ。


カーズ
Cars