M:i:III


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

今や一線を退き、教官としてIMFに勤務するイーサン・ハント(トム・クルーズ)。仕事については内緒にしている婚約者ジュリア(ミシェル・モナハン)との結婚も控えて、私生活は幸せであった。だが暗躍するディーラー、デイヴィアン(フィリップ・シーモア・ホフマン)に愛弟子(ケリー・ラッセル)が捕まったとの報を受け、救出作戦に向うことになる。


トム様、俺様の製作・主演の人気シリーズも3作目。監督・脚本はTVシリーズエイリアス/二重スパイの女』や『LOST』のJ・J・エイブラムスを抜擢し、個性派監督だったブライアン・デ・パルマジョン・ウーの後釜に据えている。


冒頭から緊張感のある救出アクションを描き、後は矢継ぎ早の展開でアクションとサスペンスで畳み掛ける。原典である往年の名作テレビシリーズ『スパイ大作戦』を意識しているのも嬉しい。特に中盤に用意されているバチカンでの拉致作戦は、チームワーク重視でオリジナルの雰囲気を再現している。これはこのシリーズにして初導入の趣向。遅過ぎた感もあるが、やはり『スパイ大作戦』映画版を名乗るのであれば、こうでないと。


その後のチェサピーク・ベイ・ブリッジにおける大アクションまで、これはひょっとしてシリーズ最高作ではないか。荒唐無稽振りもリアリズムで描こうとするその意思や、チームワーク重視の意思も感じられるし。もちろん、チームが作戦実行する場面で流れるのは、ラロ・シフリンの『The Plot』。このようにオリジナルの香りを意識した描写に、傑作ではとの期待が盛り上がる。


およそ中盤までは。


舞台が上海に移ってからは、プロットのほころびが目に付き始める。突然の行き当たりばったり作戦に、肝心な場面をすっ飛ばしてギャグが本気か分からない荒唐無稽なアクション、と陳腐な展開の連鎖反応が繰り広げられる。緊張感はどこかの隅へと追いやられ、いつの間にかトム様『ひとり大作戦』へと変貌してしまうのを、なす術も無く眺めるしかない。捻ったつもりのクライマクスも、もっとストレートな展開で緊張感を高めても良かっただろう。


そもそもこのシリーズ、どうせならば徹底してトム・クルーズ主演のスーパーエージェントものに徹すれば良かったのではないだろうか。タイトルと設定とラロ・シフリンの名曲だけ借りて、これが現代版『スパイ大作戦』でございと名乗るのは図々しい。本作においては、捕まっても当局は一切関知しないという非情な設定を反故にし、謎である筈の当局本部を堂々と登場させ、とかなりの掟破りなのだから。同僚たちとのプライヴェートな会話を挿入したり、主人公イーサンに人間味を与えようとしたりなど、ドライで非情な筈の原典を改変するのであれば、別に『スパイ大作戦』でなくてもよかろうというもの。


ゆとりの無い段取り的展開と、大画面をまるで生かしていないせせこましい構図を見るにつけ、J・J・エイブラムスは所詮テレビの監督だと思った。こうしてみると、そのフィルモグラフィの中で到底代表作とは呼べないとはいえ、第1・2作を監督したブライアン・デ・パルマジョン・ウーの作品の方が、まだまだ映画としての香りがあった。


悪役に扮するフィリップ・シーモア・ホフマンは、イヤらしいネチネチとした悪役を期待させ、実際そのように演じていて印象に残るのだが、余りに出番が少ないのが勿体無い。ゴールドフィンガーの再来となり得たのに。IMF幹部のローレンス・フィッシュバーンの存在感も良かった。作戦実行メンバーの中では、マギー・Qのエキゾチックでクールな美貌が役柄に似合っていたことを言い添えておこう。


M:i:III
Mission: Impossible III

  • 2006年 / アメリカ / 126分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of frenetic violence and menace, disturbing images and some sensuality.
  • 劇場公開日:2006.7.8.
  • 鑑賞日:2006.6.26./ワーナーマイカル新百合ヶ丘1 ドルビーデジタル上映での上映。2館上映だった先々行公開初日の土曜18時40分からの回、452席の劇場は4割の入り。
  • 公式サイト:http://www.mi-3.jp/ 予告篇・TV-CM、壁紙など。もちろん、変拍子が興奮を煽るラロ・シフリンの名テーマ曲がビシバシ流れる。