ポセイドン


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

新年を迎えた直後、豪華客船ポセイドン号は大波に襲われて転覆する。沈み行く船内から脱出しようと、上下逆さまになった世界でわずかに生き残った人々が船底へと向かおうとするが、その先には幾多もの危機が待ち構えていた。


1972年に作られた名作『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイクは、プロットを原作及びその1972年版から拝借している。しかし登場人物やアクシデントは新たに作り直されているので、原作も前作を知っている僕も先の展開が余り読めずに楽しめた。


監督のウォルフガング・ペーターゼンは、1972年版を無視している訳ではない。ニューイヤー・パーティでの歌の使い方、序盤の縦穴場面での落下などなど、前作を想起させる描写もある。しかし基本的にはオリジナルと言いたいかのようだ。


最近の大作にしては珍しい98分という上映時間は、2時間弱あった1972年版よりもかなり短い。長いエンドクレジットを除けば本編は実質80分台だ。無駄に長い大作が多い昨今で、これは悪いことではない。


ペーターゼンの演出は、サスペンスやスリルの場面で冴えていて期待通り。大掛かりな特撮の使い方も見所だ。


製作費1億6,000万ドルとも言われる超大作は、にも関わらずB級映画のような仕上がりである。これは登場人物たちがまるで描けていないままに、ひたすら危機また危機を連発し、観客が彼らに感情移入する前に次々と彼らが死んでいくのを眺めるしかないから。1972年版にあった、シェリー・ウィンタースジーン・ハックマンの命を救う場面に匹敵する箇所、感情的に盛り上がる箇所が1つも無いのだ。登場人物らの現状は分かっても、彼らがどんな性格から何となく分かる程度。ジーン・ハックマンアーネスト・ボーグナインがいがみ合い、ぶつかり合うドラマも皆無。悪い人物はさっさと退場してしまうので、登場人物らは大人しい羊の群れのように、仲良く道を切り開こうとするだけ。幾らカート・ラッセルリチャード・ドレイファスらが上手くても、ここまで底の浅い人物描写すら無い紙芝居映画では、いくら手に汗握る展開でも感動も何もない。


ポール・ギャリコの原作及び1972年版にあったキリスト教的思想も、ここではばっさりとカットされている。原作を読んだのが小学生の時分だったので無慈悲な展開が余計に印象的、特に映画版でも有名なクライマックスは個人的に強烈な印象を残したのだが、そこで重要な要素であった神と信仰の問題を削除した為に、今度の映画では余計にドラマの底の浅さが目立っている。


さらに今回のリメイクで問題なのは、上下さかさまになった世界をまるで生かしていないこと。主人公らが通り抜けるのは、殆どがダクトや通路、機関室ばかり。例えば小便器が逆さになっていた強烈なヴィジュアルに象徴される、異様に変転した世界を描いていた1972年版に比べ、美術面でも相当に見劣りする。お陰で船内の広さも体感できず、大作感の無いせせこましい出来上がりになってしまった。


ドラマや感動などを期待しないで、単純に手に汗握りたいだけの観客は、それなりに満足させるだろう。しかしここにあるのは最新の特撮とスリリングな展開のみ、映画ではなくテーマパークのライドものでしかない。いや実際、ライドものとしては合格なのだが。


ペーターゼンの狙いは、リアルタイムで進行するスリルを観客に体感してもらうことだったようだ。その代わりに失ったものが余りに多かった作品である。



ポセイドン
Poseidon