ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

第二次世界大戦下のイギリス。ペペンシー家の男女2人ずつの4兄弟は、ロンドンでの空襲を逃れ、田舎に住むカーク教授の屋敷へと疎開する。そこで偶然見つけた衣装だんすの奥には、雪に覆われた魔法の国ナルニアが広がっていた。ナルニアを冬に変えた冷酷な白い魔女ティルダ・スウィントン)と、偉大なナルニア王であるアスラン(声:リーアム・ニーソン)との戦いに、4人は巻き込まれる。予言にあるナルニアの救世主として。


C.S.ルイスの原作本全7巻は、小学生のときに夢中になって読んだものだ。シンプルな文体と語り口とテンポの良さが児童書らしく読みやすかった。雪が降り積もる森の中にぽつんと街灯が立っているファンタスティックな情景、4女ルーシーとフォーンのタムナスさんが出会う場所は、挿絵の力もあってかなり印象的だったものだ。が、そういった童話を大作映画化して面白くなっているのだろうか。言葉を喋る動物たちが大挙登場する設定が、映画として面白くなっているのだろうか。そう危惧しながら劇場に出掛けた。


物語はかなり原作に忠実に映画化されている。原作を骨格として、そこに血肉を付け加えるアプローチを行い、かなり膨らませた脚色となっていた。童話を大人の鑑賞にも耐える映画に、という意図だろう。問題はその膨らませた箇所が映画の足を引っ張っていることである。


原作は具体的描写が殆ど無い、短い本だった。それを140分という大作にした為にテンポの良さが失われ、演出はメリハリが無い一本調子なので全体に間延びしている。家族向け映画が長くなったのは『ハリー・ポッター』シリーズの罪だろうが、この映画の場合は長い上にテンポがかったるいのが難だ。また、説得力を与えようと原作に無い描写を付け加えた箇所、例えば冒頭にある兄弟の母親が登場する場面などが、映画をいびつにしている。終盤で子供思いで心配をしていた母親の存在を忘れて良いのか、と疑念の余地を与えているのはまずいであろう。元々が大人の視点からすると納得がいかない箇所が多い話なのに、そこを直さずに説明的な描写を足すのは蛇足というもの。クライマクスの決戦場面も、原作ではわずか1〜2ページで軽く触れられているものを派手で具体的な合戦として映像化しているが、果たしてそのようなアプローチで良かったのだろうか。


このような脚色に、『指輪物語』を映像化した『ロード・オブ・ザ・リング』の影響を強く感じる。人物に陰影を与え、大掛かりで具体的な戦闘場面を用意する手法は、この作品には不似合いではないか。『シュレック』2作を監督したアンドルー・アダムスンは、聞くところによると原作の大ファンだとか。その初実写作品は、観れば力が入っているのがよく分かるもの。映画キリスト教の色彩が濃いのは原作通りとはいえ、視覚的にそう面白い設定や話ではないだけに、もっと軽やかに楽しめるように仕上げた方が、作品に相応しかったように思えた。


この映画版で1番素晴らしのは、ティルダ・スウィントン演ずる白い魔女。そのいでたち、佇まい。最後の合戦場面での、颯爽とした剣さばき。原作で描かれる魔女以上に大物としての凛とした風格があり、格好良い。期待以上の魔女振りだった。


第2作『カスピアン王子のつのぶえ』の製作も決定したことだし、ひとまず次回作を見守ろうとしようか。


ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女
The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe

  • 2005年 / アメリカ / 140分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG for battle sequences and frightening moments.
  • 劇場公開日:2006.3.4.
  • 鑑賞日:2006.3.20./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1 ドルビーデジタル上映での上映。飛び石連休谷間の月曜21時30分からの回、452席の劇場は50人程度の入り。
  • 公式サイト:http://NARNIA-jp.com 予告編、C.S.ルイスなども含めた原作紹介、ゲーム、メイキング動画など、内容もりだくさん。