ホテル・ルワンダ


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1994年、アフリカのルワンダ。部族間の対立により、フツ族によるツチ族への大量虐殺が始まる。フツ族である4つ星ホテル支配人ポール・ルセサバギナ(ドン・チードル)は、妻タチアナ(ソフィー・オコネドー)がツチ族だった為に家族を守ろうとするが、やがて彼を頼ってホテルに多くのツチ族がやって来る。ポールはホテルマンとしての知恵やコネや賄賂を使い、次から次へと襲い来る難局を必死に乗り越えようとするが・・・。


ルワンダ大量虐殺」について、僕は全く知らなかった。いや、報道を見ていても忘れてしまったのかも知れない。アフリカの小国で2ヶ月に渡って起こった事件も知らなかったが、1,200人もの命を救ったホテルマンの話もこれが初耳だった。


宣伝などでは「アフリカ版シンドラーのリスト」と謳っているが、映画の作りはあちらとこちらとでは随分と違う。


映画では、国連軍や欧米諸国によってルワンダが徐々に見放されていく様子が、簡潔に、しかし胸に突き刺さるように描かれている。ホアキン・フェニックス演ずるカメラマンは、「(ニュースで見ても)世界の人々は「怖いね」と言ってディナーを続けるだけさ。」と言います。アフリカの小国での大量虐殺など、世界の誰も気にしていないという訳だ(本作品の日本での劇場公開が危ぶまれた理由の1つ、各配給会社の言い分の1つが、これと同じ理由だったのは皮肉なことである)。また、ニック・ノールティー演ずる国連軍司令官は、援助が取り付けられなかったことについて恥じ入り、ポールに向かって「(欧米先進国が救いの手を差し伸べないのは)君らがニガーですらない、黒人だからだ」と吐き捨てるように言う。いずれも人と人、国と国との距離感を、的確に表現している。


このように絶望的な状況下で多くの人々を匿い、命を救ったポール・ルセサバギナは、演ずるドン・チードルが細身で普通の人であることによって、劇中では剛健なヒーローではないごく普通の人として描かれいる。チードルの熱演もあって、一般市民である彼が知恵と勇気を振り絞って行動を起こす姿は感動を呼ぶが、その一方で人知れずプレッシャーに押しつぶされそうになって嗚咽する姿も胸を打つ。映画は普通の人でもヒーローになれる可能性を示唆するが、それは観客に対しても厳しい映画でもあるという意味に他ならない。


テリー・ジョージの演出は節度があり、感傷的な心情描写や直接的な暴力描写を極力避けながらも、全編に渡って緊迫感を途切れさせずに力強い演出で引っ張っていく。ジョージとケア・ピアスンの脚本は、主人公に危機また危機の試練の連続を与えるが、映画を人間味の無いスリラーに陥れない。一流の冒険アクション・スリラー映画よりも手に汗握りつつ、感動を呼ぶ。


劇中で描かれる、人が人に対して余りに無慈悲なる様子や、死屍累々広がる大地を観て、胸が詰まりそうになった。人間としてこのような差別や虐殺への加担を決してしてはいけない。また援助の手とは、必ずしも現地に赴くことではない。これらがこの映画のメッセージではないか、僕自身はそう解釈した。


必見の傑作。お見逃しなきよう。


ホテル・ルワンダ
Hotel Rwanda

  • 2004年 / イギリス、南アフリカ、イタリア / 122分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 on appeal for violence, disturbing images and brief strong language.
  • 劇場公開日:2006.1.14.
  • 鑑賞日:2006.3.25./シアターN渋谷 シアター2 ドルビーデジタル上映での上映。土曜15時40分からの回、102席の劇場は7割の入り。公開2ヶ月以上も経っての入りが良いのは、マスコミや口コミのお陰のよう。同劇場では4月28日(金)まで上映予定で、毎週水曜日は1,000円均一です。この機会にお見逃し無く!
  • 公式サイト:http://www.hotelrwanda.jp/ ルワンダの歴史、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノートなど。
  • ホテル・ルワンダ』日本公開を応援する会:http://rwanda.hp.infoseek.co.jp/ 日本での劇場公開を実現させた支援サイト。トップに表示される「雑記帳」に、ポール・ルセサバギナ氏来日講演へのリンクあり。