ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

チーズが大好きな発明家ウォレス(声:ピーター・サリス)は、相棒の飼い犬グルミットと共にネズミ退治に出動する毎日。折りしも町には巨大野菜コンテストが近付いていたが、そこに巨大ウサギの影がちらつく。果たしてウォレスとグルミットのコンビは、ウサギの襲撃を阻止出来るのか。そしてその巨大ウワギの意外な正体とは・・・!?


3本の短編と幾本かのショートショートを経て、ついに長編作品として登場した大人気クレイ(粘土)・アニメーション映画。ウォレスとグルミットのクリエイターであるニック・パーク監督(スティーヴ・ボックスと共同)、アードマンプロ製作は通常通りだが、ドリームワークスとの共同製作なのは『チキンラン』(2000)同様。大作になっても大味になることなく、アニメ作品として凝りに凝った映像と、細かいギャグの連発で大いに笑わせてくれる。


このシリーズ、の〜んびりしたおとぼけなウォレスと、編み物をし、植物を愛で、勘も鋭く、飼い主が自ら作り出したピンチを救う、忠犬グルミットの活躍振りが見ものな訳だが、その定番パターンは今回も健在。物言わぬどころか吠えもしないグルミットは、眼と眉の動きだけで実に表情豊か。主人想いの行動にも大いに泣かされる。可愛らしさも媚びて狙っていないのが魅力的。また、こういった「男同士だから心地よい」世界は、ホームズとワトスン、ポアロヘイスティングスらの伝統にあるように、イギリスらしさを感じさせる。無駄に手の込んだ出動場面も、『サンダーバード』(1964)や『チキ・チキ・バン・バン』(1968)を生み出したお国柄ならでは。もちろん、この場面が『サンダーバード』のパロディでもあるのは言うまでもない。


伝統的テクニックを駆使したアニメ映像は非常に良く出来ており、大作CGアニメ全盛の中ではかえって新鮮である。粘土で作られた人形たちが、口の動きも台詞にぴったり合わせ、場面によっては何十体もの人物が表情豊かに同時に動き回る。人形を微妙に動かし、ヘラで整形し、ようやく1コマ撮影・・・というのを繰り返すのだから、撮影風景は想像するだけで気が遠くなりそう。アードマン・プロのアニメーション技術の向上は著しく、短編作品に比べて背景のミニチュアも大きくなり、精密さも増した。劇場の大画面で、手作りの精緻な箱庭的世界を楽しもう。


この作品が素晴らしいのは、そういった緻密な手作り映像で出来ているのを忘れさせる、映画としての単純な楽しさ・面白さに溢れているところである。名作SF・怪奇・怪獣映画へのオマージュが至る所に溢れていて、子供は見た目で単純に笑えて、大人は過去の名作への目配せにニヤリとさせられる。『サンダーバード』や西部劇(不吉な風が吹くと、タンブルウィードならぬ綿菓子が転がる!)だけではなく、大体にして話は原題から分かるように人狼(Were-Wolf)ならぬ人ウサギ(Were-Rabbit)ものだし、クライマクスは『キング・コング』なのだから。このシリーズのスタッフたちの怪奇映画趣味の取り込み方には、毎度のことながらその上手さに感心させられる。


人ウワギのひねった展開には賛否がありそうだが、僕個人は意外性も含めてかなり楽しめた。登場人物の口癖を上手く使った展開も鮮やかだ。但しクライマクスの大アクションは、短編第2作に当たる大傑作『ペンギンに気をつけろ!』(1993)や第3作『危機一髪!』(1996)に比べ、緊張感や意外性の点で劣るように思えた。それでも、アホな主人の危機を救うべく孤軍奮闘するグルミットに声援を送ってしまうのに変わりない。しっかりもののグルミットを応援しつつ、「どっちが本当の主人なんだっ!」と突っ込みを入れるのも一興だろう。


ティム・バートンのコープスブライド』(2005)に続いて声優をしているヘレナ・ボナム=カーターや、鼻持ちなら無い、でもトンマで憎めない悪役のレイフ・ファインズの声も楽しい。特にファインズは、ハンサムな素顔をさらす実写では到底ありえない役柄で、大いに笑わせてもらった。


但し、短編にあったような切れが失われ、楽しみつつも内容がやや引き伸ばされたように感じられた。それでも、全てが元通りとはならない結末が、イギリス流の毒というかユーモアというか。こういった「味」は短編のときと変わらず、ほっとさせられる。もちろんジュリアン・ノット作曲のお馴染みテーマ曲も、豪華なオーケストラ版で演奏される。ご安心あれ。


ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!
Wallace & Gromit in The Curse of the Were-Rabbit

  • 2005年 / イギリス / 85分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated G
  • 劇場公開日:2006.3.19.
  • 鑑賞日:2006.3.19./渋谷アミューズCQN スクリーン1 ドルビーデジタル上映での上映。公開初日土曜17時10分からの字幕上映の回、200席の劇場は8割の入り。
  • 公式サイト:http://wandg.jp/ キャラクター紹介、予告編、壁紙&スクリーンセーバーのダウンロード、キャラクターグッズ販売へのリンクなど。