ハリー・ポッターと炎のゴブレット


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ハリー(ダニエル・ラドクリフ)にとっての、ホグワーツ魔法学校4年目が始まった。彼にとって、ここでの学園生活は平穏無事とはいかない。100年振りに行われる「三大魔法学校対抗試合」競技大会に、何者かがハリーの名前をエントリーした為に、危険極まりない大会に出場せざるを得なくなったのだ。その裏には、恐ろしい陰謀が潜んでいた。


人気シリーズ4作目は、色々と問題はあったものの面白かった前作『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)を凌ぐ、シリーズ最高作となった。1作目2作目が持っていたわくわくさせる無邪気さこそ跡形も無くなり、闇の勢力が強まる印象を与えるが、これは原作通り。映画を覆うダーク・トーンは、もはや無邪気な少年でなくなったハリーらの心理そのものと言えそうだ。暗く暴力的な内容は、小さな子供に見せるには限度を超えていると思える描写も含む。不穏に始まり不気味に終わる物語を、シリーズ初のイギリス人監督マイク・ニューウェルは、期待通りの手腕で語った。


物語に相応しいスケールを与えた演出は、娯楽大作映画のお手本である。随所に挟み込まれたロングショットは、映画に大作ならではの風格を与えている。また、学園ものとしての側面も忘れておらず、ユーモラスな日常場面を挿入していたりで、筋を追うのにやたら忙しかった前作が忘れていたものを思い起こさせてくれる。『フォー・ウェディング』(1994)や『フェイク』(1997)など、今まで小ぢんまりしていた作品を丁寧に監督していたニューウェルが、特撮もりだくさんの大作を成功させるとは、期待以上の働きだった。


但し、筋を追うのに忙しいのは本作もそう。スティーヴ・クローヴスの脚本は長大な原作のプロットをすっきりとさせているが、それがアダとなって、まとまりに欠ける原作の短所が露わになっている。また、幾人かの登場人物のエピソードも中途半端なまま終わってしまうが、これは映画版第5作目で引き続き描く予定なのだろうか。それとも、映画の暗めの雰囲気を残すために、わざと宙ぶらりんにしたのか。中途半端に描くのであれば、本来ならば思い切って削るべきだろう。しかし今後の展開が分からない原作から下手に離れる訳にもいかない。まだ完結していない原作を脚色する難しさは、このシリーズにしばらく付いて回りそうだ。


シリーズから初めて降板したジョン・ウィリアムズに代わって登板したのは、ケネス・ブラナー作品の常連パトリック・ドイル。ウィリアムス作曲のお馴染みのテーマ曲は劇中でも2〜3箇所のみ、しかもかなりアレンジされた形でしか演奏されない。弦を生かした流麗な音楽はドイルらしく、アクション場面等でもかなり派手に鳴っているが、全体の統一感が今1つだったのだろうか。ウィリアムスの楽曲に比べて印象が薄いのは残念だ。


ラストで「あの人」を演じるスターや、もはや顔見せどころか、顔もCGで声だけの出演となってしまった人も含め、イギリス人俳優たちの顔触れは贅沢。上映時間が長くとも、お正月映画らしい華やかさを持つ入場料金分の価値はある作品として、楽しめる出来に仕上がっている。但し、長い長いエンドクレジットはもっと早回しにしても良いのでは、と思ったけれどもね。


ハリー・ポッターと炎のゴブレット
Harry Potter and the Goblet of Fire