ロード・オブ・ウォー


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ウクライナ出身のユーリ(ニコラス・ケイジ)は、スーツにネクタイ、革靴にアタッシェケースといういで立ちの、一見すると普通のビジネスマン。元モデルの妻(ブリジット・モイナハン)と幼い息子想いの家庭人でもある。が、その素顔は世界を股に駆けて暗躍する武器商人。今日も彼を執拗に追いかけるインターポールの捜査官(イーサン・ホーク)をかわし、武器を売りさばく。が、思わぬところから足元をすくわれようとは。悪運も遂に尽きるのか。


脚本&監督のアンドリュー・ニコルは、『ガタカ』(1997)や『シモーヌ』(2002)の脚本&監督、それに『トゥルーマン・ショー』(1998)や『ターミナル』(2004)といった映画の脚本家でもある。言わば目の付け所が面白い映画人だ。その監督第3作目は、これまた恐らくは映画史上初の武器商人を主役に据えた映画となっている。


武器商人というと、どことなく怪しげな雰囲気の男を思い浮かべるのは僕だけではないだろう。しかし実在の武器商人に密着して取材したというこの映画が描くのは、快活で愛想良く、喋りの立つ営業マンだ。彼は武器を売ることに何ら良心の呵責を感じることもなく、需要あるところに供給ありとばかりに、虐殺を行う独裁者ら相手に平然と商談をまとめ上げる。


そんな訳で、この映画最大の興味は武器商人の実態の描き方に尽きる。武器の入手経路や売りさばき方、法の網の目のかいくぐり方、密輸の擬装方法など、詳しく手口を紹介しており、非常に面白い。武器の流通経路のシステムがこんな風になっているのか、と興味が尽きない。


映画は追われる主人公と追う捜査官の虚虚実実のやり取りも描き、黒い笑いも散りばめた娯楽悪党映画として成立している。だからここは開き直って、積極的に娯楽映画として仕上げるべきではなかったか。後半は説教臭い風刺映画となり勢いが削がれてしまうのが、映画を中途半端なものと印象付けてしまうのだ。


映像面では、薬莢や弾丸で埋め尽くされた路上で主人公が観客に向かって喋りだす冒頭や、実際の旧ソ連の戦車や小火器がずらり並ぶ場面も圧巻だったりで、脚本だけでなく映像にもこだわるこの監督らしい意匠が見られる。スリリングな演出もそつなくこなし、独特の個性を一般的な娯楽映画の範疇に収めてしまう手腕を見るにつけ、ニコル監督は今後ますます楽しみだと思わせる。


脚本は風刺を込めた人物配置をがっちりさせている。主人公と相反する良心の象徴として、薬物に溺れる弟(ジャレッド・レト)。夫の職業が何か怪しいものと思いつつも、自らの快適な生活が他国で流される血の上に成り立っていると知らない妻。勧善懲悪を象徴するインターポール捜査官。時代に取り残された、古い時代の「良識ある」大物武器商人(イアン・ホルム)。なるほど、抜かりはない。演ずる役者も皆、きっちりと自分の役割を果たしている。特に重要なのが主人公の妻で、彼女を現代アメリカ人の象徴と見ることが出来よう。


映画は終盤に悪魔の誕生を高らかに歌い上げるが、それ以上の巨悪の存在をも示す。それが明確に打ち出されるのがラストで、そこに至って本当の武器流通の巨大システムを示し、静かに巨悪を糾弾するのだ。


ロード・オブ・ウォー
Lord of War

  • 2005年 / アメリカ / 122分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence, drug use, language and sexuality.
  • 劇場公開日:2005.12.17.
  • 鑑賞日:2005.12.28./渋谷シネ フロント ドルビーデジタル上映での上映。水曜16時からの回、245席の劇場は3割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.lord-of-war.jp/ 映画の冒頭場面がいきなり登場(掴みはオッケー!)。宣伝マンの公式ブログ、監督&脚本家アンドルー・ニコルへのインタヴュー、国際ジャーナリストへのインタヴュー等、他サイトとのタイアップコンテンツが充実。