ザスーラ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ダニー(ジョナ・ボボ)とウォルター(ジョシュ・ハチャースン)の幼い兄弟は喧嘩ばかり。ある日のこと、地下室で偶然見つけたブリキ製のボードゲームザスーラ」を始めてみると、いつの間にかに家ごと宇宙空間に投げ出されていた。襲い掛かる隕石群や凶悪な宇宙人などを相手にした時、2人の絆が試される。


ジュマンジ』(1995)、『ポーラー・エクスプレス』(2004)と映画化されているクリス・ヴァン・オールスバーグの絵本を原作とした映画で、この本編が1番出来が良く、楽しめる。その理由は、単純明快な脱出劇に徹したことによる。


ザスーラによって宇宙で命がけの体験をすることになった兄弟は、いつまでも仲違いしているどころでなく、協力し合ってゲームを進めるしかない。こういった定石もきちんと使いこなしているし、次々と襲い掛かる怪異も目新しさは無いものの結構迫力があり、時にはひやひやさせられる。「実体化する宇宙ボードゲーム」というもの珍しい器(ま、当然ながら『ジュマンジ』と同じだが)に、いつかどこかで観た光景を丁寧に盛り合わせたのがこの映画。いわば懐古調映画なのだが、それが上手く行っている。ボードゲームのデザインも、狂った暴走ロボットも、悪い異星人が乗った宇宙船も、懐古調。プロダクション・デザインは統一が取れているし、デジタル技術を駆使しているにも関わらずアナログ調の手触りで、それがどことなく優しく、面白い。


冒険が始まるまでの30分間、映画は喧嘩ばかりしている幼い兄弟と、誠実で優しくも育児にやや疲れ気味の父親(ティム・ロビンズ)の姿を描く。兄弟の性格分けもここでしっかり成されている。父親の描写にやや時間を取られ過ぎの感もあるが、これが監督2作目のジョン・ファヴローの演出は丁寧で、観客が子供たちにも父親にも共感出来るようになっている。子供たちが成長していくジュヴナイルSFのお約束をきちんと守っているし、アクションやサスペンスもがっちり撮っていて、これが単なる子供向け映画、家族向け映画と侮れない。手抜きは無く、大人も子供も楽しめる映画に仕上がっているのだ。


聞けばファヴローは、エドガー・ライス・バロウズスペース・オペラ古典『火星のプリンセス』映画版監督に抜擢されたとか。この映画を観る限り、丁寧な人物描写と手に汗握るアクション描写に問題は無く、大作SFにも大いに期待が持てるというもの。というのも、野田昌弘の名言にある通り、「SFは絵だ」を実現しているから。主人公らのいる一軒家が土台の地面もろもと宇宙空間を浮遊している壮大な映像からして、この監督がこの手の映画に不可欠なSFマインドを分かっていることは明らかだ。


ジョン・デブニーの音楽は威勢が良く、金管を派手に鳴らしたB級SF活劇調のテーマからして快調。こちらも映画の身の丈に合った劇伴として効果的だった、と記しておこう。


ザスーラ
Zathura: A Space Adventure