ドミノ


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

幼くして俳優の父を亡くした少女ドミノ・ハーヴェイ(キーラ・ナイトレイ)は、大学をドロップアウトして賞金稼ぎとなる。ティームを組んだ父親代わりのエドミッキー・ローク)やチョコ(エドガー・ラミレス)らと共に危険な仕事をこなす毎日だったが、正真正銘、命を失いかねないマフィア絡みのヤマに巻き込まれてしまう。


北米での本作公開直前である今年6月に死去したドミノ・ハーヴェイを主人公にした実録もの・・・などと期待してスクリーンに向かうと、恐らくは面食らうだろう。トニー・スコット監督の新作は、リチャード・ケリーの入り組んだ脚本を凝った手法で映像化し、妄想が暴走する怪作になっている。一応はFBI捜査官(ルーシー・リュー)によって尋問されたドミノが、ことの顛末を語る回想形式を取っているものの、回想の中に回想が出てきたり、最悪を予期していた妄想を描いてから巻き戻して実際の結果を見せたりで、とにかくやたら忙しい。スコットの前作『マイ・ボディガード』(2004)から前面に押し出された手持ちキャメラ映像は、ザラ付いて光が飛んで黒が潰れ気味。ショットによって色調を変え、細かくて慌しく繋いだ編集で全編ハイテンションに乗り切る荒業。いや、一見荒業に見えてその実緻密なのではあるが。


これだけ落ち着かない映画にも関わらず、時間軸の中心が分からないなどということもなく、強引なまでにまとめ上げた力量はさすがと言うべきだろう。ここ何作かのオリヴァー・ストーンといい、スコットといい、大ヴェテラン監督がMTVの如き映像スタイルで長尺映画を撮ってしまうというのも面白い現象である。古い映画スタイルをぶっ壊すとの意図は明確だ。


こういった映画なのに、ミッキー・ロークを始め、デルロイ・リンドークリストファー・ウォーケンジャクリーン・ビセットルーシー・リュー、ダブニー・コールマンらが演じる脇役たちが、各々個性を披露してフィルムの粒子に埋没しないのは大したもの。そんなヴェテラン陣の中で、主役のキーラ・ナイトレイはパンクな格好と仕草で熱演しているが、今ひとつ彼女の個性と役柄が合っていない。上流階級のお嬢様生活を捨て、スリルに満ちた世界に身を投じる心情が伝わってこないのだ。また、ラストに登場する本物のドミノの姿にあった、迫力あるタフさに欠けている。


リチャード・ケリーの脚本は面白い仕掛けが幾つも施されている。『ビバリーヒルズ高校白書』主演者のアイアン・ジーリング(スティーヴ役)とブライアン・オースティン・グリーン(デヴィッド役)を、頭も性格も悪い本人たちとして登場させ、賞金稼ぎティームのテレビ取材に同行する・・・と虚実ない交ぜな趣向。既に冒頭から「これは実話を基にしている・・・殆ど」などと字幕を出すのだから、話がどんどん現実離れした展開になるのは良しとしよう。刻々と状況が悪化していくのっぴきならない展開で観ている間は面白いものの、映画はただただ脚本と演出の語り口で見せるだけで、ヒロインの心情に迫らない。ドミノの父であるローレンス・ハーヴェイ主演の『影なき狙撃者』(1962)が幾度か劇中のテレビに映るが、思わせぶりなだけでヒロインの心理にさしてシンクロしているとも思えない。勿体付けても女の子がヌンチャクを振り回し、銃をブッ放すだけの映画。アドレナリン過剰でスリルの連続がドミノの心情というならば、ただそれだけの映画になっている。


それにしてもクライマクスが、トニー・スコットが過去に監督した『トゥルー・ロマンス』(1993)と『エネミー・オブ・アメリカ』(1998)とまるで同じ状況なのはどういうことか。スコット本人は余程好きな趣向なのだろうが、こちらは彼の自己模倣にげんなりしてしまう。


過剰な映像スタイルによって過激な暴力描写もフィルターが掛かるが、それでも一般観客にとっては受け入れられるのが難しいスタイルの映画だ。そんな訳でアクション映画にしては一般受けはしなさそうだし、ドラマとしても食い足りない。面白いものの、実在の人物を何故題材にしたのかが分からない、映像スタイルとは逆に製作意図が不明確な映画である。


ドミノ
Domino

  • 2005年 / アメリカ / 127分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence, pervasive language, sexual content/nudity and drug use.
  • 劇場公開日:2005.10.22.
  • 鑑賞日:2005.11.10./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘5 ドルビーデジタル上映での上映。木曜18時55分からの回、164席の劇場は10人少々程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.domino-movie.jp/ 予告編&TV-CF、スタッフ&キャスト紹介など、内容は簡素な作り。