チャーリーとチョコレート工場


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

超貧乏な一家に育った少年チャーリー(フレディ・ハイモア)は、夢のチョコレート工場見学が出来る世界にたった5枚しかない切符を手に入れる幸運に巡り合えた。謎のウィリー・ワンカ社長(ジョニー・デップ)によるチョコレート工場見学は、一行に驚きと・・・そして試練を与えるのであった。


ブラック・ユーモア作家である故ロアルド・ダールによる児童文学『チョコレート工場の秘密』2度目の映画化は、どうやら原作にほぼ忠実との評価を得ているようだ。原作は未読だが、原作に忠実であるとするならば、なるほどダールらしい毒気に満ちていよう。同時に、出来上がった映画はティム・バートンらしく幼児的・狂騒的で、カラフルな悪夢にも満ちている。ダールの世界とバートンの世界は重なる部分も多いのだろう。無邪気で邪気な世界はバートン映画そのもの。それを具現化した白塗りで甲高い声のジョニー・デップも、バートンの分身と言えよう。だがこの映画で1番強烈なのは、バートン映画常連のダニー・エフルマンによる楽曲の数々である。


工場で働く大勢のウンパ・ルンパが歌うミュージカル場面は、子供っぽい意地悪さで塗り潰され、時にクイーン風、時にビートルズ風などと手を変え品を変え、ミュージカルの良く出来たパロディとして楽しめ、笑いを誘う。いや、笑いを誘うなどとは生ぬるい表現か。映像と歌の余りの強烈さに悶絶し、暫く後を引くこと請け合い。今までエルフマンは時としてバートン映画を支える屋台骨ではあったのだが、前面に出ることは少なかった。が、この映画の場合、場面によっては文字通り映画を乗っ取ってしまっている。映画としてのバランスとしてはおかしなことになっているが、それが余り気にならないのは、そもそもバランスを欠いたいびつな世界を舞台としているからだろう。


バランスの喪失という点では、ワンカ社長と今やバートン映画の厳格な父親像そのものなクリストファー・リー演ずる歯科医ワンカ氏の関係もそれに当たる。終盤に至っては、家族愛映画の殆どパロディでないかと勘違いしそうな展開になり、首を傾げてしまいう。かつてのバートン映画、『Planet of the Apes/猿の惑星』(2001)までのバートンだったら、他人と理解し合う場面なぞパロディにしかならなかった。しかし『ビッグ・フィッシュ』(2003)以降の、実生活で父親となったバートンは、どうやら真剣な様子。取り合えず伏線は張ってみました的な途中に挿入された幾つかの回想場面と、それでもって強引なまでの親子和解場面を見るにつけ、古くからのファンはバートンは変わったと嘆息するも良し。何にせよ、自分は誰にも理解されない、とつぶやく孤独なティム・バートン少年はもう居ない。ここには父親と折り合いを付け、自らも父親となったティム・バートンが居るのだ。こういった作家の成長を見守ることが出来るのも、映画ファンの特権とも言える。


ビッグ・フィッシュ』以降、バートンお気に入りとなったらしいジョン・オーガストの脚本はこのように余り上手くないし、全体にでこぼこした仕上がり。でもこのいびつさこそ、ティム・バートン映画の魅力でもあるのだ。


チャーリーとチョコレート工場
Charlie and the Chocolate Factory