シン・シティ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

愛する女を殺された、醜い無垢なる大男(ミッキー・ローク)は、壮絶な復讐を遂げようと突き進む。背後に巨大権力があることを知っても、怯むことなく。前科者(クライヴ・オーウェン)は女に暴力を振るう男(ベニチオ・デル・トロ)に焼きを入れてやるつもりだったが、付け回す内に武装した娼婦たちとギャングたちの抗争に巻き込まれる。幼女連続暴行殺害犯は権力者の息子(ニック・スタール)だった。狭心症で引退間際の老刑事(ブルース・ウィリス)は、そいつに致命傷を負わせるも罪をなすり付けられて刑務所行きとなる。出所後、助けたかつての幼女がストリッパー(ジェシカ・アルバ)として成長していることを知るが、権力者の息子は黄色い化け物となって復讐の機会を伺っていた。犯罪と暴力の街、シン・シティで繰り広げられる3つの物語。


名高いコミックアーティスト、そして大の小池一夫ファンでもあるフランク・ミラーによる原作グラフィック・ノヴェル(劇画ですな)は、10年程前に映画の第1話分相当だけが邦訳されている(最近、再販済み)。画は白と黒のみ、トーンが無い絵で描かれたハードボイルド物語は、異様な熱気が篭っていた。それを読んでいる上でこの映画を観、さらにもう一度読み直すと、物語から台詞、画面の構図までが原作に忠実なのが良く分かる。劇画の映画化/映像化というより、劇画の映像への翻訳/移行/移植と呼ぶに相応しい。極端なコントラストによるモノクロ映像が、時折パートカラーに染められていて、この映像が非常に格好良いのだ。真っ赤なドレスや唇、ブロンドの髪、黄色の怪人。血は白、時に赤、そして時に黄色。これら非現実的な映像により物語は神話性を高め、同時に暴力描写にフィルターがかかるようになっている。これらの映像と脇役に至るまで豪華な配役によって、映画は一際独創的な見世物となっている。


劇画に忠実な余り、主人公のモノローグの多さが耳に付く欠点もある。過剰でせわしない映像とモノローグの洪水、矢継ぎ早の展開により、各エピソードが最初から最後まで山場・山場・山場と突き進む。それが実は各エピソードが大した話でないことが露見し、またかえって「山場」に欠くようにも思えた。


その一方で、紛れも無く映画ファンが作った映画であることも良く分かる。『ダーティハリー』(1971)からの名前の借用や、悪党に罪を償わせる場面での『ブレードランナー』(1982)への目配せ(しかも役者も!)などに表れている。映画への想いに溢れた劇画が、劇画への想いに溢れた映画に生まれ変わったのは面白いことだ。


監督はミラーとロバート・ロドリゲスの共同としてクレジットされている。これが初監督のミラーが意外なことに演技面での演出を行い、ロドリゲスが映像面を担当したとか。ロドリゲスの過去の諸作品(『エル・マリアッチ』(1992)、『デスペラード』(1995)、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)、『スパイキッズ』シリーズなど)に見られた「前半に勢いがあっても途中から腰砕けな構成」が、しっかりした原作もので、しかもオムニバス映画となったことにより、クリアされている。これが本作の勢いが最後まで削がれなかった要因だろう。ゲスト監督クエンティン・タランティーノによるパートも、黒い笑いで包まれていて、可笑しい。


この映画の主役は、愛する女の為には自らの命まで投げ出そうとするタフな男達だ。見てくれとは別に、彼らの純情振りは最近の映画では滅多にお目に掛かれないもの。対するのは自分で道を切り開いて生き延びるタフな美女達。女性陣が裸か半裸ばかりなので、男尊女卑のレッテルを貼るのにたやすい映画だが、実は彼女たちも自らの意思で渦中に飛び込む、強い存在として描かれている。この世界では、男も女も、犯罪者も娼婦も、自らの名誉と愛する者の名誉を重んじる者達ばかりなのだ。


これは非常にロマンティックな映画である。男たちの愛する女たちへの想いは、どれも現世では遂げられない。現実に成就しない想いこそ、真のロマンティシズムではないだろうか。フランク・ミラーが描いた夢物語は、荒々しい暴力と儚い夢に満ちていて美しい。名誉と自己犠牲を重んじるサムライ精神というアナクロニズムと、斬新な映像の融合がここにある。


役者たちは過去のイメージを増幅させた者もいれば、過去のイメージを覆す者もいて、顔触れも含めてバラエティ豊か。それぞれ出番の多い少ないに関わらず、光っている。分厚いメイクに覆われ、タフネスの権化となったミッキー・ローク。しなやかなクライヴ・オーウェン。己の信条を守り通すブルース・ウィリス。彼ら3人は当たり役だし、特に素晴らしい。


異様な熱気とスピード感、鑑賞後の重さなど、ジェイムズ・エルロイのハードボイルド小説(例えば傑作『ビッグ・ノーウェア』など)を読み終えた時と同じような感覚が残った。清潔に精製されて魂を抜かれたハリウッド映画に見飽きた向きは、ヘヴィでハードな肌触りのこの映画を楽しめることだろう。重量感にノックアウトされぬよう、お気を付けあれ。


シン・シティ
Frank Miller's Sin City

  • 2005年 / アメリカ / 126分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for sustained strong stylized violence, nudity and sexual content including dialogue.
  • 劇場公開日:2005.10.1.
  • 鑑賞日:2005.10.1./ワーナーマイカルシネマズつきみ野1 ドルビーデジタル上映での上映。公開初日の映画の日、土曜13時15分からの回、315席の劇場は6割の入り。