ランド・オブ・ザ・デッド


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

地上は生ける死者に征服されていた。金持ち階級が支配する都市フィドラーズ・グリーンは、2本の河と障壁で囲われ、生ける死者=ゾンビの襲撃から守られていた。支配階級の下で働く傭兵部隊は、武装してゾンビのばっこする外界で略奪を働くのが日常だった。そんな仕事に嫌気が差していた傭兵部隊長ライリー(サイモン・ベイカー)は、引退を考えていた。だが上流階級入りを望み、支配者カウフマン(デニス・ホッパー)に拒否された傭兵のチョロ(ジョン・レグイザモ)は激怒、武装装甲車に搭載されているミサイルを使ってカウフマンに宣戦布告する。ライリーはチョロを阻止せんとするカウフマンによって送り出された。折りしもその時、人間たちの虐殺に怒ったゾンビの集団が、フィドラーズ・グリーンを襲撃しようと進軍していた。ゾンビたちは武器や道具の使い方を覚え、進化しつつあるのだ。


ゲーム『バイオハザード』のヒット以来、注目されているゾンビ。そしてソンビと言えばこの人ジョージ・A・ロメロ監督だ。自主製作映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(Night of the Living Dead / 1969年)にて、人肉を食らう生ける死者を描き、現在のゾンビ像を決定付けた。Living Deadシリーズの第2部『ゾンビ』(Dawn of the Dead / 1978年)の大ヒットにより、数多くのエピゴーネンが派生したのは周知の通り。第3部『死霊のえじき』(Day of the Dead / 1985年)は前2作ほどのインパクトは無かったが、シリアス且つハードコアなホラー映画として評価も高い作品だった。


ロメロのゾンビ映画が他の「単なる」ホラー映画と違って評価されているのは、製作当時の時代を映した社会批判・風刺を眼目としたものだからである。『ナイト〜』では、ヴェトナム戦争と人種問題を、『ゾンビ』では消費社会を、『死霊のえじき』ではレーガン政権下の右傾化を象徴していた。1990年代には鳴りを潜めていたロメロが21世紀に送る新作のテーマは、ずばりブッシュ政権下のアメリカと、アメリカ取り巻く世界の縮図を描くことにあったようだ。


金持ち白人が自分の手を汚さずに、武力でもって近隣諸国にて勝手に振る舞い、それが怒りを買って襲撃される構図。富裕層と貧困層の固定化の構図。不満を持った下層階級により、テロが足元で起こる構図。映画はこれら現代のアメリカ及び国際社会をテーマにしていて、それらが非常に分かり易く、直接的に描かれている。


このようなテーマにも関わらず、幸運にも映画は説教臭くなく、アクション・ホラーとして楽しめる出来になっている。複数の人物たちが並行して描かれる構成は最後まで求心力を失わない。但し、アクション重視の為に過去の3部作に比べ死人たちの悲哀は薄れ、テンポ重視の為に重厚さは消え、大掛かりな物語に比べて世界の広がりが若干狭く、また登場人物の多彩さを描き切れていないのは残念だ。そして何より、人間に対する冷徹な視線が薄れた。低予算映画の『ゾンビ』にはそれがあったのに。メジャースタジオ製作の現代調映画にして失ってしまったものも大きかったようだ。


しかしそこは腐っても反骨派のロメロ。ゾンビが卑小な人間を食らう描写は健在だ。『バイオハザード』(2002)、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)といった作品では、ゾンビが噛み付く程度の描写だったが、こちとら本家本元だわいとばかりに、ゾンビが人間を食いちぎる映像もある。が、大手メジャーのユニヴァーサル映画なので、成人指定を避ける為に過去の作品ほど長々と生々しくは映さない。こういった部分が、過去の作品よりも一般寄りになっていると思う。


登場人物では、主人公ライリーよりもジョン・レグイザモが好演するチョロ、ライリーの右腕役のロバート・ジョイが面白い。ブッシュとラムズフェルドを足して2で割ったような悪役デニス・ホッパーは、卑劣な金持ちという雰囲気だった。元娼婦の戦士役アーシア・アルジェント嬢にはもっと活躍してもらいたかったところだ。


ラストはロメロのゾンビ映画にして初めて、希望が見える。そして共に自分の居場所を失った男同士の視線の交じり合い。こういった描写に、一昔前まであった良き娯楽映画の伝統が残っている。やはりロメロの根っこは、軽めの現代調には無いようだ。


ランド・オブ・ザ・デッド
George A. Romero's Land of the Dead

  • 2005年 / アメリカ / 93分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for pervasive strong violence and gore, language, brief sexuality and some drug use.
  • 劇場公開日:2005.8.27.
  • 鑑賞日:2005.9.9./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘3 ドルビーデジタル上映での上映。平日金曜21時50分からの回、237席の劇場は20人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.lotd-movie.jp/ 予告編、壁紙、プロダクション・ノート、スタッフ&キャスト紹介など。ゲームがあった北米版サイトに比べて寂しい・・・。