奥さまは魔女


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

魔女イザベル(ニコール・キッドマン)は、魔法を使わない普通の恋を夢見て、人間界へと降り立った。偶然彼女を見かけた落ち目のスター、ジャック(ウィル・フェレル)は、自分が主演するシットコム奥さまは魔女』の魔女サマンサ役にイザベルを抜擢する。自分の素性を隠したイザベルは、ジャックが自分に恋していると勘違いし、これで普通のロマンティックな恋が出来ると有頂天だが・・・。


お馴染み『奥さまは魔女』の映画版リメイクをすると聞いて、当然サマンサとダーリンが主役かと思っていたら、こう来たか。往年のラブラブなテレビドラマのリメイクを劇中劇とし、それを演じる俳優たちによって展開される現実の恋愛も描く、という二重構造がを考え付いただけでも、脚本家たちは偉い。成功すればオリジナル版の雰囲気も損なわれず、且つ新作の新しさも楽しめるのだから。ノーラとデリアのエフロン姉妹の脚本は巧みだ。


舞台がシットコムの撮影現場ということで、その裏側が見られるのも魅力的である。魔法の場面でのやり直しが上手く行くと観客たちが暖かい拍手を送ったり、アメリカの国民性も出ていて成る程と思える。「映画の舞台裏もの」としても面白い出来だ。


イザベルとジャックの恋の行方は一筋縄では行かず、紆余曲折があるのだが、所々に挿入される魔法騒動がかなり笑える。ジャックの卑しい魂胆を知って激怒したイザベルにより、番組収録中に魔法をかけられ、ジャックが詰まらないアドリブを連発するくだりなど、大笑いだ。この場面はウィル・フェレルのコメディアンとしての才能も見られ、楽しめる。また、時間を巻き戻す場面では切なさも漂っていて、ヒロインの「普通の恋がしたい」という想いの裏付けとなっている。


このように脚本は非常に面白いのだが、時々もっと笑わせてくれ、と求めたくなる瞬間が幾つもある。イザベルを心配したプレイボーイの父親(マイケル・ケイン)が様々なシチュエーションで登場する趣向など、別の監督だったらもっと笑えたのに、と思わせる。笑える場面もロマンティックな場面も、全体的に演出にスマートさが足りない。また、2人の想いが実るクライマクスも、もう少しロマンティックな演出の魔法が欲しかったところだ。ノーラ・エフロンは脚本家としては優秀だが、監督としてはややどん臭いのが残念。むしろ、今回は製作に回ったペニー・マーシャル(『ビッグ』(1988))が演出した方が良かったのではないだろうか。


本来ならば世間知らずで恋に恋する魔女の役は、38歳のニコール・キッドマンではなく20代の女優が演ずるべきだろう。それでもサマンサのトレード・マークである鼻ピクピクも含め、役に成り切ってしまうのが大女優の証し。このところ深刻な映画が続いていたキッドマンは、人間たちと会話がちぐはぐだったり、あるいは怒ったりする場面で、そのコメディ・センスを披露している。パステルカラー系の衣装の力も借りているとはいえ、可愛らしい。時々、外見の年齢が気になるときがあるものの、ほぼ違和感なく演じている。


相手役のウィル・フェレルは、こちらにとっては『ズーランダー』(2001年)の怪演が強烈に印象が残っていて、観る前にはダーリン役には抵抗があった。しかし「嫌な」ダーリンを演じているので、これが意外に合っている。特にジャックがキれる場面やアドリブなどで本領を発揮し、キッドマンとの相性も見た目からして悪くない。サマンサの母親役を演じる時代がかった大女優を演ずるシャーリー・マクレインは、どんぴしゃりの配役。仰々しく煙と共に登場する場面など、大爆笑もの。一方でご贔屓の大ヴェテラン、マイケル・ケインは、意外に普通だった。


奥さまは魔女
Bewitched

  • 2005年 / アメリカ / 103分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some language, including sex and drug references, and partial nudity.
  • 劇場公開日:2005.8.27.
  • 鑑賞日:2005.9.8./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘4 ドルビーデジタル上映での上映。平日21時40分からの回、175席の劇場は15人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/bewitched/ 予告編、あのアニメを模した壁紙、オリジナル版シットコム紹介、”魔女”スタイル紹介など。余り力が入っていない感じのサイト。