アイランド


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2019年。大気汚染により、人々は隔離された巨大都市の中で生活を送っていた。そこは個人のプライヴァシーも一切無い管理社会。人々の数少ない楽しみはくじ。当選した者だけが、ここからアイランドと呼ばれる地上最後の楽園に移住できるのだ。このところ悪夢に苛まれていたリンカーンユアン・マクレガー)は、この社会での日々に疑念を持つ。あるとき彼はここの恐ろしい秘密を知り、親友のジョーダン(スカーレット・ヨハンソン)と共に脱出を図る。責任者のメリック博士(ショーン・ビーン)は、ローラン(ジャイモン・フンスー)率いるセキュリティ・チームを追っ手として差し向けた。


監督マイケル・ベイと僕とは、非常に相性が悪いのである。『アルマゲドン』(1998)、『パール・ハーバー』(2001)、『バッドボーイズ2バッド』(2003)といった、醜悪に肥大した無味乾燥な下手糞こけおどしアクション大作には辟易しつつ、今度こそは多少まともかも・・・と、毎度薄い期待を胸に抱いて新作を劇場で観、「また騙された」とがっくりする。その繰り返しだった。今度はベイが、これまた僕と相性の悪い製作者ジェリー・ブラッカイマーから離れ、初めてひとり立ちした作品。しかも初めてSFを撮るということで、多少は期待したのだが。


筑紫哲也とおすぎの絶賛には騙されたが、やはりベイなんてこの程度の監督なのだろう。そう思って観ていたら、左程落胆せずに済んだ。


オリジナリティには程遠く、しかも一部の観客からは「映像派」として評価の高いベイらしく、金太郎飴の如くどこを切っても俺様印が観られる。


初のSFということで張り切ったのだろう。内容は1970年代に作られたディストピアSF映画そのままだし、金属とコンクリの建物に、白くて身体にぴったりした衣装という、この2000年代に作られたとは思えない時代錯誤振りが楽しい。映像も内容も『THX-1138』(1971)や『2300年未来への旅』(1976)からの影響がもろに出ている。臓器移植テーマに天井からぶらさがったおびただしい身体というと、『コーマ』(1978)か。赤い砂漠地帯を白い服の人間が走るのは、『カプリコン・1』(1977)だろう。後半にある大掛かりなカーチェイスは前作の『バッドボーイズ2バッド』と全く同じ趣向だし、早くも自作のパクリをやらかすとはと、相当なツラの皮の厚さに感心した。


何せ映像派だから人物描写が書割程度なのはいつものこととして、映画の前半で描かれる管理社会の場面で退屈を誘われてしまうのは、この監督がドラマを描けない証拠である。それがグロ場面(PG-13指定映画なので、『バッドボーイズ2バッド』で見せた鬼畜趣味は片鱗だけ)や、アクション場面になると、嬉々として映画が走り出すのだから、その分かりやすい幼児性はご愛嬌というもの。大都市での空中バイクの追跡場面なぞ、『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』(1983)のスピーダー・バイクを再現したかったのだろうなぁ。しかし肝心のアクション映像も、十年百日の如く接写ブレブレで何が何やら分からず、具体的な迫力が盛り上がらずに、観ているこちらのイライラばかりが膨れ上がる。高層ビルを断崖絶壁に見立てた場面は迫力満点で、ここだけは劇場で観る価値はあるが、まさしく絶体絶命とばかりの展開から、笑ってしまうほどの超ご都合主義で主人公らが助かるという、知能指数の低い粗雑な脚本には脱力するしかない。


クローン人間を持ち込んだアイディアはまぁ悪くないが、展開は相当に大雑把。こんな代物に大金を湯水の如く注ぎ込むハリウッド映画会社の金銭感覚にも恐れ入る。大体にして、序盤は生命の尊さを描く振りをして、途中からはどう観ても巻き添えで相当数の死傷者が出ているであろうアクション場面の連打なのだから。こんな風にハッタリだけの映画なのも、この監督らしい。


と、大よそ凡庸以下の出来映えなのではあるが、それでも観る価値ゼロという程でもない。主役2人のユアン・マクレガースカーレット・ヨハンソンの相性が宜しく、魅力的。隣のお兄さん的な親しみ易さを持つマクレガーと、若き才色兼備ヨハンソンの組み合わせを考え出したのは、製作者側のヒットだろう。大作アクションでこの2人を看板にするというアイディアは予想外だ。この2人、大作でもそれぞれが自分の色を出しているのが面白い。無色透明でどんな映画でもこなしてしまうマグレガーは、訛りも変えての芸達者なところも見せて楽しませてくれるし、ヨハンソンは無垢と優しさと強さを兼ね備えた役柄というこの手の映画のステレオ・タイプでも、人間味を与えることを忘れていない。XboxやMSNといった、マイクロソフト社のプロダクト・プレイスメントがやけに目立つ工業製品映画に、この2人が人間味をもたらしてくれて、一服の清涼剤となっている。


アイランド
The Island

  • 2005年/アメリカ/136分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of violence and action, some sexuality and language.
  • 劇場公開日:2005.7.23.
  • 鑑賞日:2005.7.23./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘9 ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜、2館上映の内、18時40分からの回、240席の劇場は15人程度の入り。
  • 公式サイト:http://island.warnerbros.jp/ 予告編、各種画像など。これだけ文章が少なくて画像一辺倒なのは、書くネタが集められにくい日米同時公開だからだろうか。でもパンフレットには、そこそこ書いてあったしなぁ。