最後の恋のはじめ方


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ヒッチ(ウィル・スミス)はデート・ドクター。クライアントである男性の依頼により、好きな女性と恋のきっかけをお膳立てしてあげるのが仕事だ。新しいクライアントは冴えない会計士アルバート(ケヴィン・ジェームズ)。彼が惚れた女性とは、何と富豪令嬢のセレブリティ、アレグラ(アンバー・ヴァレッタ)だった。アルバートの依頼をこなしながらも、ヒッチ自身もやり手ゴシップ記者サラ(エヴァ・メンデス)と知り合い、凝った手でサラにアプローチを仕掛けるが・・・。


ウィル・スミスがロマンティック・コメディに主演するのはこれが初めて、というのは意外だが、この映画に相応しいのは意外ではない。スラリとした長身とハンサムなルックス。都会的で洗練された物腰。表情豊かで台詞のリズム感も良く、嫌味の無い好印象。この手に映画にうってつけのスターではないか。この映画を観てみると、スミスの主演でこういった映画をもっと観たい、と思わせる。


しかしながら、この映画にはスミスの好敵手がいた。それがアルバート役のケヴィン・ジェーイムズだ。かなりの太めで冴えない外見に加え、コーヒーやマスタードをこぼす間抜け振りで、上流社会の富豪令嬢相手は苦難の道と思わせる。ドジな役なのに、意外にもジェイムズ自身の身体能力の高さが目に付く。身体が柔らかく、ダンス場面等でのリズム感も良い。これはコメディ俳優として大いなる長所だ。身体を張るスラプスティック・コメディでなくとも、笑いにはリズムが大事なのだから。彼にはそれが備わっている。おまけにスミスとの相性も良し。正直に言おう。この映画、ヒッチの恋愛パートよりも、アルバートのパートの方が面白い。それはケヴィン・ジェイムズが、スターであるスミスを、時には食ってしまっているからである。また、ヒッチがサラに繰り出すテニクックが裏目に出てしまう可笑しみが薄いのも原因だろう。この点に関しては、演出に責任がありそうだ。


ヒッチが繰り出すテクニックは一般人には実践困難と思われるものも含まれていても、「ある種の」How toものとしての面白さがある。スパイ映画のテクニックに魅了されるのと近いと言えば良いだろうか。それらが引き起こす笑いと顛末に比べ、映画を観終わると女性たちの心理は殆ど描かれていないことに気付く。この映画は基本的に男性側からの視点で描かれている為に、コミカルな男優2人の元気の良さが目立つ。それに比べシリアスな女優たちは、彼らの引き立て役に近い扱いだ。男をふろうとする女を主人公にした、『10日間で男を上手にフル方法』(2003)と対になる作品とも言えそうだ。


結局のところ、手練手管よりも素の自分を出すのが一番、という中道路線的結論に落ち着く映画ではあるが、数々の面白い素材にも関わらず、アンディ・テナントの演出はリズムが良くない。この人、『メラニーは行く!』(2002)でもそうだったが、1場面1場面がテンポに欠けて歯切れが悪く、こういったコメディに必要な弾みが無いのだ。この手の映画に向いていない素質なのではないか。映画が面白くなったのは、凡庸な演出を救った好調な男優たちのお陰である。


最後に、都会的で温かみのあるジョージ・フェントンの音楽が、さり気無く映画に彩りを与えてたことを記しておこう。


最後の恋のはじめ方
Hitch

  • 2005年/アメリカ/118分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):PG-13 for language and some strong sexual references.
  • 劇場公開日:2005.6.4.
  • 鑑賞日:2005.6.4./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘8 ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜20時55分からの回、238席の劇場は6割の入り。
  • 公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/hitch/ 予告編、コラム、ニューヨークデート・スポット、特別企画へのリンクなど。男性視点である映画の内容と違って、女性客をターゲットにした作り。