ザ・インタープリター


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

国連で通訳として働くシルヴィア(ニコール・キッドマン)は、ふとしたことから南アフリカにある某国大統領暗殺計画の会話を聴いてしまう。通報するも、やって来たシークレット・サーヴィスの捜査官ケラー(ショーン・ペン)は、直感からシルヴィアが嘘を付いていると確信する。謎に包まれた彼女の過去から、通報そのものに疑いを持つが。


久々に観た由緒正しきスリラー、といった風情の作品。過度の暴力も精神異常者も裸も登場しない、一昔前のどこか端正なスリラーの香りが漂っている。それもその筈、監督は今年71歳のシドニー・ポラック。『コンドル』(1975)、『トッツィー』(1982)、『ザ・ファーム/法律事務所』(1992)といった優れた娯楽映画を送り出してきた人だ。最近のスリラーに比べてテンポは若干ゆったりしているが、その分、適度に優雅な雰囲気が良い。スリラーとしての演出も、観ていてキリキリと胃を締め上げられるような感覚は無くとも、十分楽しませてもらえる。例えば、3つのグループがバスに乗り合わせる場面。各グループにはシークレット・サーヴィスが張り付いていて、観客と共に何が起こっているのか、何が起きるのかと、ハラハラさせられる。


過去にロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンらの魅力を引き出したポラックらしく、キッドマンとペンのスター2人からも、スター然とした姿・演技を引き出している。相変わらず画面に映えて美しいキッドマンは、恐怖におののきながら決意に満ちた行動を毅然として見せてくれるし、大型スリラーに似つかわしい。この手の大作娯楽映画は久々ペンは、力強い台詞回しと表情で応える。またこの2人だからだろう、互いに食われること無くまごうことなく2人が主役である、との印象を強く持たせる。


娯楽映画に社会的メッセージを込めるのもポラックらしい。スリラーの体裁を保ちながらも、物語の根幹は暴力の持つ円環構造と、現在のアメリカの外交政策批判となっている。それでも飽くまでも娯楽映画としての体裁を失わないバランス感覚が、ヴェテラン監督の力量と言えよう。国連に勤務するシルヴィアが暴力否定派で、アメリカ人のケラーが復讐肯定派と登場させながら、2人が歩み寄っていく姿を淡いラヴ・ストーリーとして重ね合わせていくのも上手い。また、本物の国連ビルでロケーションを行っただけあって、画面のスケールは中々のもの。それでも、主役2人は画面負けしていない。国連の巨大な会議室に負けない大スターを据えたのは成功だった。このところ不調を伝え聞いていたポラックだが、最近はむしろ脇役俳優として見られる自らも、ケラーの上司役で出演し、乗っている監督振りを見せてくれる。


一方で、脚本の弱さは指摘しなくてはならないだろう。プロットがかなり入り組んでいるので、もう少し整理して明快にしても良かったのではないか、と思わせる。スコット・フランクスティーヴン・ザイリアンといった名手が揃ったものの、船頭多くして山登ってしまったのだろうか。また、役者の演技に助けられているので大して気にはならないが、ドラマ部分の細かい箇所がやや強引なところや、ケラーがシルヴィアに対して持った疑念がどうなったのか、その扱いが中途半端なところが見られる。


ザ・インタープリター
The Interpreter