モーターサイクル・ダイアリーズ


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1952年。23歳の医学生エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、7歳年上の親友アルベルト(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)と共に、南米大陸横断の貧乏旅行に出る。アルベルトのぽんこつバイク、ポデローサ(怪力)号に乗り、ブエノスアイレスから北上した彼らは、過酷な南米の現実を目の当たりにする。


後にカストロと組む革命家チェ・ゲバラ若き日の青春映画・・・などと思って観ていなくても、青年の成長物語としても十分鑑賞可能な映画。正義感と理想を抱きながらも、うぶだったエルネストは1万キロにも及ぶ旅行により、その後の生涯に大きく影響を受けてしまう。単純明快なロード・ムーヴィーのプロットに、様々なエピソードを上手く掛け合わせ、成長物語として説得力のある映画として、これは面白い出来だ。原作はエルネスト・ゲバラとアルベルトのそれぞれの日記らしいが、実際に出来上がった映画はエルネストの視点から描いたものとなった。これは正しい判断だった。エルネストの成長物語に絞り込んだことにより、1本の揺らぎない芯が出来上がり、すっきりとより感情移入しやすいものとなっている。


映画には印象的なエピソードが幾つも登場する。遠距離恋愛しているガールフレンドの実家での滞在。そのガールフレンドから水着代として預かった15ドルの行方。貧しい夫婦が過酷な鉱山で働き口を見つけるのを目撃するくだり。そして終盤を占めるのは、ハンセン病療養施設での数々のエピソード。これらにより、理想の実現に向かって進もうとするであろうエルネストの感情が手に取るように分かり易いものとなっている。ホセ・リヴェーラの脚本とウォルター・サレス(『セントラル・ステーション』(1998))の演出はテンポがありながら丁寧で、人物描写も的確。ユーモアを塗しつつ、シリアスな現実を直視している。また、アルゼンチンのブエノスアイレスから始まり、チリの砂漠や鉱山、ペルーの古代遺跡マチュピチュといった南米のロケーションを楽しめるのが、ロード・ムーヴィーとしても大きな魅力となっている。


この映画がゲバラ1個人の物語だけではなく、青春映画として普遍的なものとなったのは、無垢なる心を持つ青年の物語だからだろう。理想と情熱を持つことの輝きが魅力的に描かれることによって、心に響く映画となった。そして社会の中での個人の幸福とは、と思索するゲヴァラの感情は、映画を観る者への訴えにもなっている。


この作品は、今勢いに乗っているガエル・ガルシア・ベルナルを観られる映画でもある。真面目で無垢な、うぶな青年が世界を知り、様々な人と出会い、階級制度や差別への静かな憤りを感じ、同時に社会的弱者への思いやりを持つ1人の男へと変化する。その様を表情だけでも演じてしまう。この映画はベルナル無しには考えられない。対照的に遊び人で口八丁なアルベルトを演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナは、実際にエルネストのいとこだそうだが、真面目なエルネストと良いコンビを見せてくれる。


モーターサイクル・ダイアリーズ
Diarios de Motocicleta