サイドウェイ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ワイン愛好家の教師マイルス(ポール・ジアマッティ)は、結婚を1週間後に控えた親友ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)を連れ、カリフォルニア州サンタバーバラでのワイナリー巡りとゴルフ三昧が目当ての旅行に旅立つ。そこで彼らは2人の女性たちに出会う。


『ハイスクール白書/優等生ギャルに気をつけろ!』(1999)や『アバウト・シュミット』(2002)といった、言わゆる「ひねくれた」佳作コメディを連発していたアレクサンダー・ペインの監督・脚本最新作は、これら過去の作品同様に主人公は冴えない中年男。まぁ、今までは、「冴えない」と言ってもマシュー・ブロドリックだったりジャック・ニコルソンだったりなので、しょぼくれ方がましな方だったかも。が、今度はポール・ジアマッティなので、しょぼくれ方が真に迫っている。小柄な身体を猫背気味にし、肥満気味で頭髪が薄いその風体に、神経質な気質(もちろん役柄)を与えたならば、もう完璧。ピノ・ノワール(葡萄の品種)製のワインにこだわり、カベルネ・ソーヴィニヨンを忌み嫌ううんちく屋は、作家への夢を捨て切れず、別れた妻へも未練たらたらの男ときている。何だかこう書くと、ウディ・アレン映画のアレン自身みたい。印象はかなり違うけどね。


一方の相棒ジャックは落ち目のテレビスターで、顔はそれなりにハンサムな能天気気質。ワインの味なぞよく分からない彼の旅の目的は、ずばりバチェラーパーティ(まぁ独身サヨナラ・パーティですな)そのもの。独身最後に羽目を外すべく、凝りもせずに女と見れば誰でも良いとばかりに口説き回り、全身下半身と化す。


彼ら2人は言わば中年の危機に差し掛かっている。マイルスは700ページ以上もの小説を執筆したが、出版の当ては無い。代理人からの連絡を待つ身である。ジャックは不動産屋の娘との結婚が控えている逆玉の輿。生活は安泰になりそうだ。が、それで良いのか。まだオーディションを受け続けて良い役を獲得すれば、人気者に返り咲けるのではないか。そう自問自答している。彼らは何となく先の見えてきた人生に対し、漠然とした不安を抱いている。そんな彼らがちょこっと寄り道(サイドウェイ)にそれて人生を模索するのが、この映画なのである。


マイルスを演ずるジアマッティは全くの自然体。神経質ですっかり自信喪失気味のどこにでもいそうな男になっているし、ジャック役ヘイデン・チャーチは軽薄で頭も悪いのに、どこか憎めない奴を演じている。2人の呼吸もぴったり。珍道中ロード・ムーヴィーに相応しい配役だ。


そんな彼らの前に現れるのがワイン愛好家の2人の女性。ウェイトレスのマヤ(ヴァージニア・マドセン)と、ワイナリーで働くステファニー(サンドラ・オー)だ。ジャックとステファニーは早速意気投合してベッドインするが、マイルスとマヤは惹かれ合っても、互いにそう簡単には踏み込めない。マイルスの台詞「ピノ・ノワールは皮が薄く、育てるのが難しい。カベルネ・ソーヴィニヨンと違って手がかかる。」とは自分自身のことなのだが、これを優しく微笑みながら見つめる知的なマヤは、マイルスにとって理想の女性の筈。ワインと人生を重ね合わせて語る久々マドセンは、40過ぎても相変わらず美しく、若い時に比べてむしろ魅力的な年輪を重ねていて、慈愛に満ちた演技は心に染み入る。90年代前半のムダ脱ぎ路線で才能を使い捨てられていた頃よりも、今の方がずっと魅力的だ。


世間で言われているようにこの映画ではワインが主役だ、などと捉えるよりも、ここは先のマイルスの台詞に表われている通り、劇中でのワインの扱いは飽くまでも隠喩程度だと解釈するのが正しいのだろう。主役だろうが脇役だろうが、映画を観たら美味しいワインが飲みたくなるのには違いない。


まぁ、しけた男が人生に行き詰まりを感じていたところ、旅先で理想の美女に巡り遭う男に都合の良い映画、と言われれば、やっきになって反論しようとは思わない。『アバウト・シュミット』同様のロード・ムーヴィーな上に構成も似ている、と気になる点もある。ペインの前2作は、どうあがいても結局は現実を変えられないという結末だったのに、本作は微かな日差しをほのめかす終わり方になっていて、何だかありきたりの優等生になってしまった、という批判も分からないでもない。それでもこの映画、そう単純な映画ではない。マイルスが精神的ダメージを受けると、いきなりドタバタに転調する可笑しさ。旅先で互いの本性が出て、マイルスとジャックの友情にひびが入るかとハラハラすると、突然大笑いの意表を突いた展開(しかも裸あり)に持っていき、解決させてしまう強引さ。この映画、物語に暗雲がたちこめそうになると、突如として笑いを取りにいく。このような意外にも一筋縄ではいかない脚本と演出は健在だ。


一番可笑しいのは予想外の行動を取る人間だ、という視点は変わらずに、人情描写とギャグに磨きをかけ、それでいながらでしゃばらずに控え目。アレクサンダー・ペインは持ち味を発揮しつつ、皮肉な視点を押さえ目にして、間口の広い映画に仕上げた。その味わいはあっさりとして適度に辛口、ほのかに甘口だ。


ロルフ・ケントのジャズ音楽も楽しいし、もちろん出てくるワインも美味しそう(いや、僕自身もジャックと同様にワインは分からないけどね)。ということで、翌日の夕食はワインを飲みましたとさ。


サイドウェイ
Sideways

  • 2004年/アメリカ/カラー/130分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for language, some strong sexual content and nudity.
  • 劇場公開日:2005.3.5.
  • 鑑賞日:2005.3.19./TOHOシネマズ海老名6 ドルビーデジタルでの上映。海老名での初日土曜21時20分からの回、145席の劇場は4割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/sideways/ 予告編あり。「SPECIAL」にある「「サイドウェイ」ワインマップ」が、劇中に登場する店やワイナリー、ゴルフ場などを簡単に紹介していて楽しい。