ポーラー・エクスプレス


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

サンタクロースは存在するのか、それともしないのか? 少年は猜疑心を持ち始める年頃になっていた。クリスマス・イヴの夜中、家の前に北極行きの蒸気機関車ポーラー・エクスプレスが停まる。車掌に招かれ列車に乗り込んだ少年は、驚きに満ちた冒険の夜を体験する。クリス・ヴァン・オールズバーグの絵本を元にした、フルCGアニメ映画。


どうにも居心地の悪さを感じた映画だった。いや、観た環境にもよったのだろうが。

原作絵本は、村上春樹の訳による『急行「北極号」』の名で日本でも読むことが出来る。パステルで描かれた大胆な構図の絵が美しく、淡々とした少なめの文章と共に、静謐な闇の魅力に満ち溢れた小品だった。ロバート・ゼメキスが監督、ゼメキスとウィリアム・ブロイルズ・ジュニアが共同で脚色し、トム・ハンクスがCGの基となった演技と声で主演&製作総指揮に携わった映画は、この絵本の拡大版と言い切って構わないだろう。


最新技術を惜しげもなく投入したCG映像は緻密な出来映えである。原作のファンタスティックなタッチを再現する為に、実写ではなくCGで映像化したこだわりは、ある程度成功しているように見えた。高細密でありながらフォトリアリスティックとは違う、非日常性のある独特な空間を構築していて、機関車や雪景色、北極点にある大群衆で溢れかえる北極点の街並みなど、機械や風景は非常に魅力的に描かれている。人間の表情や仕草も、細かいところまでよく出来ている。


アニメイション映画ならではの大胆で迫力のあるアクション映像は、近年のゼメキス作品に顕著な現実にはあり得ないキャメラワークと相まって迫力があり、映画を分かっている職業監督らしい出来映えだ。これがIMAX 3-D上映で観たら映画をもっと楽しめたかもしれない。映像には明らかに立体効果を狙った演出が施されており、製作当初から3-D上映を念頭に置いていたと思われる。普通の映画館でも迫力満点なのだから、ましてやIMAXの巨大画面でしかも立体だったら、さぞや・・・。要は普通の劇場では役不足なのだ。映像のみが殆ど見所の映画において、IMAX版で観られなかったのは少々残念だった。


ただ問題なのは、こういった質の高い映像が、映画の質に貢献していないことだろう。短い原作を長編映画として引き伸ばすべく、行間を派手なアクション場面で埋め、原作の持つ幻想的な静けさを破壊した結果、プロットは同じでもまるで違う印象を受けてしまった。想像力に溢れた映像で満たされた映画が、観客の想像力を奪い取ってしまうのは皮肉なもの。絵本と映画はメディアが違うとはいえ、全くの別物となっている。


唐突なミュージカル場面にも違和感がある。ミュージカルとは登場人物が唐突に歌い出すものだが、この映画ではミュージカル場面の劇中でのウェイトが中途半端なので、何とも居座りが悪い。


ジェットコースターの主観と見まごう映像や、歌の場面、説教臭い内容など、総体的にいかにも刹那的子供向け娯楽映画といった風体。観ていてむずむずしてしまうのは、内容的に何か大事なものを伝えようとしているのに、とある車両の場面が妙にホラー映画調だったりで、無理して子供が飽きないように作った娯楽映画になっているからだろう。


加えて中途半端にリアルで中途半端にデフォルメされた人間の造形には、違和感を禁じえない。トム・ハンクスら役者の動作のみならず、顔の表情まで正確に再現した技術力の高さに感嘆はすれど、それはアニメイション映画としての魅力とは別次元のものだろう。ゲーム会社が自社の技術力向上の為に作った、リアル志向の『ファイナル・ファンタジー』(2001)とは映画の方向性が違うとはいえ、アニメ映画としての居心地の悪さ感じてしまった。


僕が観たのは唐沢寿明が吹き替えた日本語版だった。トム・ハンクスの声をアテるのは、『トイ・ストーリー』シリーズ繋がりと思われる。実直な演技には好感が持てるものの、複数の役をやるにはやや平板。原語版ハンクスの語りの芸には及んでいないのではないか、と想像された。


ポーラー・エクスプレス
The Polar Express