バッドサンタ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ウィリー(ビリー・ボブ・ソーントン)はデパートでサンタのバイトをしている、見るからにだらしなく口汚い、重度のアル中男。その正体は、妖精役の小人の黒人マーカス(トニー・コックス)を相棒に、閉店後に金庫破りと高級品の盗難を働く泥棒だ。その彼が、ひょんなことからある少年(ブレット・ケリー)の家に、一時の間住み込むことになる。


「BAD SANTA」とメインタイトルが出る背景で、裏道でサンタがゲロを吐いているという素敵な冒頭のこの映画。ここにいるのは、間違いなく映画史上最低の素行を誇るサンタである。有り金は全て飲んでしまうし、遅刻をしては子供を膝に乗せたままで小便を垂れ流し、会場では物を壊して倒れ込む。女たちに淫らな視線を送り、女性服売り場で行為に及んでいるのをデパートの責任者に見咎められ、相棒と共にクビを宣告されると「小人の黒人をクビにしたら、差別だとして世間が黙っていないぞ」と、いきなり政治的正しさを持ち出して脅かす始末。おまけに大の子供嫌いときている。製作会社の親会社ディズニーが怒ったのも当然か。しかし一見キワもののように思える、この下品で口汚い悪党映画は、デパートのサンタの正体や如何にという発想の楽しさもさることながら、すこぶる魅力的で愛すべきクリスマス映画に仕上がっている。


じゃぁ、どうせワルの主人公が、可愛らしい子供と出会って改心する映画だろ、と思ったあなた。


違います。


この少年、役名もずばりThe Kidという彼は、いつも青っ洟を垂らしたデブで気の弱いいじめられっ子だ。いかにも鬱陶しいガキに見える彼は、何故かウィリーに付きまとい、やはり鬱陶しく思うウィリーに追い払われながらも、全くめげるところを見せずに健気に付きまとう。それが段々と観客には可愛らしく見えてくるのが、おや不思議。居候を決め込むウィリーに「サンタなのにソリは無いのか」「白い髭が無いのは何故か」などと質問攻めをし、親切にもサンドウィッチを作ってあげようとする。豪邸に祖母と2人で暮らす少年の悲しい状況はやがて明らかになるが、それでもウィリーは同情なぞするつもりも無いようだ。


この種の映画では、ワルの主人公は最後は改心してハッピーエンドを迎えるのが常である。この映画ではそうはならない。ウィリーは何かに目覚めるものの、少なくとも改心はしないのだ。生まれて初めて充実感を味わうきっかけが、少年をひどい目に合わせたいじめっ子連中をブン殴ってやったというのも凄い話。彼の中の萌芽が芽生えた瞬間を、ビリー・ボブ・ソーントンは可笑しく繊細に演じていて、絶品だ。


ソーントンの演技だけでなく、映画全体のトーンはシニカルで可笑しく、現実味がある。それでいて人間性を切り捨てることのない、居心地の良さに包まれている。バーテンのスー(ローレン・グレアム)がウィリーと付き合いだすのも、最初は彼女がサンタの衣装に欲情するサンタ・フェチだったから。ワルの魅力に囚われた彼女も含め、登場人物は程度の差こそあれ、抑圧を抱えている人が多い。またウィリーの相棒マーカスは、陽気で親切でありながら冷酷な面も持ち合わせた支配的な悪党、と立体的な造形になっている。コメディでありながら人物の洞察に富んだグレン・フィカラとジョン・レクアの脚本は、お約束の展開を少しずつずらし、実に面白く仕上げた。その一方で、悪党2人に目を付ける警備主任(バーニー・マック)の扱いが中途半端なのが惜しまれる。


この映画の肝は、監督テリー・ツワイゴフアウトサイダーに対するい温かい眼差しだろう。コンパクトな上映時間に豊かな内容を盛り込み、快調なテンポを崩さずに、上々の娯楽映画にまとめ上げた手腕は大したものだ。ここにある笑いと感動は、「善きも悪きも人間さ」と抱擁してくれる、安っぽさとは無縁の大らかな人間賛歌そのものである。


それでもシニカルな映画らしく、今まで悪党だった人間が簡単に改心なぞするのは嘘八百だ、と決め付ける映画は、それでいながらウィリー、スー、少年(それに祖母)らにハッピーなエンディングを迎えさせる。悪党が心ならずとも周りの人間にも最大の贈り物をしてしまう可笑しさ。サンタの恩恵を一番受けたのは、ウィリー本人かも知れない。幸福なクリスマス映画としてお勧めしたくなるのも当然の出来だ。


バッドサンタ
Bad Santa