スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1939年ニューヨーク。世界的な科学者が次々と失踪する事件を追う記者新聞ポリー(グウィネス・パルトロウ)は、数々の巨大ロボットが飛来し、マンハッタンを襲う現場に居合わせる。ロボットを迎え撃つのは空軍のエース、スカイキャプテンジュード・ロウ)だ。スカイキャプテンとスクープ狙いの野心的な記者のポリーは、2つの事件の繋がりを知り、陰謀の裏側に迫ろうとする。


これをアナクロニズムと呼ばずして何と呼ぼう。殆どモノクロに近いモノトーン映像に、当時の空想科学映画に似せた数々の構図、次々と出現する幾多もの数と種類のロボット軍団(それも宮崎駿アニメの元ネタとなったフライシャー兄弟作品のような)、アメリカ軍による秘密兵器、強気な美男美女による丁々発止の台詞の応酬。こういった道具立ては、まるっきり昔の映画そのものではないか。


この映画、実際に鑑賞してみるまでは危うい橋を渡っている、いわゆるキワモノになりかねない作品だと思っていた。監督・脚本は新人のケリー・コンラン。この全く初耳の新人は、何でも殆ど引き篭もりのコンピュータおたくで、この映画は彼自らが開発した新システムによって作られたとか。そのシステムとは、殆ど完璧なCGIストーリーボードを作成後、キャストをブルースクリーンの前で撮影し、合成するだけでハイ出来上がりという。おたくによる人工趣味映画とあっては、作り手だけいい気になって観客が置いてけぼりを食らうのではないか、ロボットばかりでまるで詰まらない映画になるのではないか、と危惧したのも当然というものでしょう?


映画のルックは先に述べた通り人工趣味そのもので、魅力的でありながら非常に実験的である。この独特な個性に対し、観客側が拒否反応を示すか否か。それがハードルだろう。しかしハードルは低く、それを超えた観客ならば、きっと映画を楽しめるに違いない。コンランはコンピュータという絵筆を使って画面を塗り潰すことだけに腐心することなく、不特定多数が楽しめるファンタスティックな作品に仕上げた。


この映画の特徴として、全編CGだらけの特撮映画にも関わらず、独特の艶があることが挙げられる。その艶は、飛行船がエンパイア・ステイト・ビルの頂上に着陸する冒頭から如実に表れている。ゆったりと浮かぶ飛行船が、下界からのスポットライトを浴び、ビルの頭頂部に接続する様を、ソフト・フォーカスなモノトーン映像で描く。このところCG映画にやや辟易していた僕も、この独自の世界にはすっかり魅了された。摩天楼のど真ん中での、スカイキャプテンと飛行ロボットとの空中戦など、レトロでありながらスピード感も迫力もある。後半には先の空中戦から趣向を変えて、潜水飛行軍団(これが何かはお楽しみ)対水中ロボット軍団との戦闘も用意されていて、こちらもスリルがある。終盤に登場する謎の島は、名作『キングコング』(1933)に登場した髑髏島そのものだろう。こういった趣向は映画ファンの心をくすぐり、こちらも思わず嬉しくなってしまう。コンランは単純なプロットでも適度な仕掛けを映画に配置した。これで後半にスカイキャプテンとロボット軍団とのアクションの絡みがあれば、さらに良かったのに。どうやらコンランは映画のレトロなスタイルに興味はあっても、レトロなロボットそのものへの思い入れは薄いようだ。


幸いにもこの映画は、特撮とアクションだけの映画ではなかった。笑える場面も用意していて、ともすれば人工美に窒息しそうになりそうな映画に人間味を与えている。特に後半、ポリーの引き起こす数々のギャグは笑える。グウィネス・パルトロウという、およそコメディと縁が無さそうな女優にどちらかというと堅物の役どころを与え、真面目な彼女が引き起こすドジが可笑しいという方向に持っていくところに、この新人脚本家・監督の着眼点の確かさが見られよう。


このヒロインの相手役ジュード・ロウは作品世界にぴったりだ。人工的な顔立ちと、英国訛りでユーモラスな台詞を喋る様子が作品世界に似つかわしい。パルトロウとの相性が良いのは、既に『リプリー』(1999)で共演済みだからか。出番が少ないながらもその場をさらうのが、パワフルなアンジェリーナ・ジョリー。アイパッチに黒い制服の飛行戦隊リーダーという役柄が、笑ってしまう程に合っている。こういうゲスト出演でもしっかり印象を残すところに、いよいよジョリーが大物スターらしくなってきたように感じられた。


定番ではあるものの、『オズの魔法使』(1939)なぞのモティーフも入れ込み、ケリー・コンランが好き放題やったかのような映画ではあるが、観客を楽しませる方向にベクトルが向いている、意外やまっとうな娯楽映画としてお勧め出来る。さて、コンランの次回作『火星のプリンセス』映画化はどうなることやら。個人的には主人公である南軍将校ジョン・カーターには、10年前の企画であったトム・クルーズよりも、ヒュー・ジャックマンなんぞが良いのでは、と思うのだけどね。


スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー
Sky Captain and the World of Tomorrow

  • 2004年/アメリカ、イギリス、イタリア/カラー/108分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG for sequences of stylized sci-fi violence and brief mild language.
  • 北米劇場公開日:2004.9.17.
  • 日本劇場公開日:2004.11.27.
  • 鑑賞日:2004.9.20./AMCエンパイア25(タイムズ・スクエア/N.Y.) ドルビーデジタルでの上映。公開4日目の月曜21時10分からの回、200席程の劇場は20人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.skycaptain.jp/ キャスト&スタッフ紹介、予告編など。「SPECIAL」というコーナーが11月24日現在工事中なので、さてどんな内容になるのやら。