アイ,ロボット


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ロボット3原則

  1. ロボットは人間に危害を加えてはならない。
  2. ロボットは、人間から与えられた命令に服従しなくてはならない。
  3. ロボットは、前掲第1条及び第2条に反するおそれのない限り、自己を守らなくてはならない。

(『アイ,ロボット』パンフレットより抜粋)


家庭用ロボットが一般に普及した2035年のシカゴで、高名なロボット工学博士のラニング(ジェームズ・クロムウェル)が、謎の死を遂げる。ロボット嫌いの刑事スプーナー(ウィル・スミス)は、一見自殺に見える博士の死を不審に思い、新型ロボットを殺人犯と睨む。が、ロボット心理学者のカルヴィン博士(ブリジット・モイナハン)は、ロボット3原則によりそんなことはありえないと否定する。


アイザック・アジモフのSF短編集である名作『われはロボット』を読んだのは遥か以前なので、こんな話あったっけかな、と思っていたら、物語自体はジェフ・ヴィンターによるオリジナルとのこと。同短編集に出てくるラニングやカルヴィンらの登場人物と、有名なロボット3原則を持ち出し、ついでタイトルを頂いたものとか。そんな訳で、事前には商魂逞しくイヤらしさが漂う商品との偏見を抱いていたが、実際に観てみるとこれがかなりマトモな、3原則も拡大解釈されたものの、まぁちゃんと使った映画になっていた。


ウィル・スミスは『バッドボーイズ2バッド』(2003)でのナマクラ振りを払拭し、気合の入った役作りを見せてくれる。偏屈なところもあるパラノイア気味の優秀な刑事という複雑な役どころも、娯楽映画に合った身の丈で演じていて、妙に深刻ぶったところも無く、適度な軽さが気持ち良い。以前の身体の切れも取り戻し、アクション場面の動きも悪くない。ほぼ全編がCG特撮に埋め尽くされている映画にあって、特撮に負けない肉体感と豊かな才能を披露してくれるのは、今のハリウッドでスミスくらいだろう。スミスのこの映画での貢献度は高いものとなっている。


未来都市の描写は意外に印象に残らない。現在と未来の建築物が入り混った市街地や子道具類も含めて、2054年のワシントンD.C.を舞台にした『マイノリティ・リポート』(2002)に比較すると一歩劣る。それでも主人公が乗るアウディは飛びっきりクールだし、写真や予告で見るとぱっとしなかったiMacのようなデザインの主役ロボットNS-5も、実際に動いて台詞を喋るとこれが案外魅力的。大型トラックを使ったトンネル内でのカーチェイスや、ロボット軍団襲撃のアクションなど、最近の大作らしく特撮は良く出来ている。


センス・オブ・ワンダーを感じさせてくれた『ダークシティ』(1998)のアレックス・プロヤス監督は、ここでもその心を失っていない。壮観で印象的な構図の映像を見せてくれるし、テンポも『ダークシティ』より遥かに良い。過去のSFで使い古されたネタも多いですが、この内容盛りだくさんで2時間以内に収めたのはお手柄だろう。


ただテンポ重視の為か、ヴィンターとアキヴァ・ゴールズマンの脚本は、所々で粗さが目立つ。ラニング博士とスプーナー刑事の関係や、スプーナーがロボット嫌いになった理由は弱く、台詞で解決しようとするのが見え見えでかえって説得力に欠けるし、訳ありなスプーナーの身体の由来もご都合主義的。前半から中盤までは謎解き中心で、一体どうなるのかと期待に胸躍らせて観ていたが、終盤になるとロボット3原則をやや強引ながらも上手く解釈しつつ、意外とよくあるというか、ハリウッド大作らしい強引なアクション満載の展開になってしまったのは残念だった。


それでもSFスリラー/アクションとしては、最近の大型映画の中では良く出来ている方。手に汗握りつつも気軽に楽しめる、過大な期待を持たずに観る娯楽映画としてお勧め。


アイ,ロボット
I, Robot

  • 2004年/アメリカ/カラー/115分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense stylized action, and some brief partial nudity.
  • 劇場公開日:2004.9.18.
  • 鑑賞日:2004.10.9./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘2 ドルビーデジタルでの上映。大型台風が関東を襲った後の土曜21時10分からの回、280席の劇場は5割の入り。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/irobot/ スタッフ&キャスト紹介、予告編、壁紙などの定番に加え、コンセプト・アートも観られるのは嬉しい。ゲーム、「戸田奈津子の映画の英会話」(因みに本編の字幕はSFが得意な林完治が担当)、「アイ,ロボット」トリビアなど、内容は相当に盛りだくさん。