ヘルボーイ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

第2次大戦末期、ナチスドイツは不利な戦局を打破すべく、秘密結社トゥーレ協会の会長クロエネンとロシアの怪僧ラスプーチン(カレル・ローデン)の協力を仰ぎ、悪魔の力を借りようとする。企みは連合軍により阻止され、地獄からは悪魔の子ヘルボーイのみが出現した。時は現代に移り、成長したヘルボーイロン・パールマン)はアメリカ政府の秘密機関である超常現象調査/防衛局に配属され、モンスター退治の日々を過ごしていた。怪人クロエネンはラスプーチンを蘇らせ、世界を闇に落とし込もうとする。


1916年に毒入りケーキを食わされ、銃弾を撃ち込まれ、す巻き状態で凍てつく川に放り込まれて、ようやく暗殺されたラスプーチンが、何で第2次大戦に?


などというのはともかく。


全身真っ赤な筋骨隆々の肉体、額は禿げ、そこから生えている2本の角を切り落としているので、ゴーグルを載せているかのよう。顎鬚を生やし、髪はマゲを結った侍スタイル。石のような巨大な右手は破壊力を秘め、愛用のごつい大型拳銃サマリタンを左手に持ってぶっ放し、ぶつくさ文句を言いながらも、この世に跋扈する怪物退治に勤しむ。好物はチョコレートバーに、業務用の巨大ボウルに山と入ったチリ・ビーンズ、それにタバコ。ベタ惚れしている念力放火能力者の彼女(セルマ・ブレア)に言い寄る新米捜査官が出現すると、嫉妬心を燃やしてこっそりとデートの後を付ける。


こんな人間味溢れる、身体は大人でも中身は子供のままの悪魔の子(まさに餓鬼刑事(デカ)ですな)が主役として大暴れするならば、ジャンル映画ファンとしては大歓迎したいところ。演ずるロン・パールマンクロマニヨン人役だったデヴュー作『人類創生』(1981)以来久々の主役か。おっと『ロスト・チルドレン』(1995)もあったか。とまれ『薔薇の名前』(1986)、『エイリアン4』(1997)、『スターリングラード』(2001)などの脇役として、一度観たら顔を忘れられない原始人顔怪優の名を欲しいままにしてきた彼が、出演した『ブレイド2』(2002)のギジェルモ・デル・トロ監督と組んだこの作品、主役としては大成功ではないだろうか。マイク・ミニョーラの原作コミックそっくりなルックスを再現した、リック・ベイカー監修による分厚いメイクも何のその。パールマンは我がまま駄々っ子な愛嬌と、時折見せる凄みを見事に表現してくれる。


魅力的な登場人物はヘルボーイだけではない。ヘルボーイの後見人でもある育ての親ブルッテンホルム教授役ジョン・ハートは、我が子の素行の悪さに手を焼く、愛情と諦めの入り混じった複雑な感情を演じていてさすがだし、不幸が似合い過ぎて素敵なセルマ・ブレアはドンピシャ。ヘルボーイの同僚である半漁人エイブは、気持ち悪い外見で最初は引いてしまいそうになるが、冷静なのに妙に愛嬌があるので好きになってしまう。怪人クロエネンは、金属製マスクにナチの黒い征服、敵を鋭く切り裂く刀を両手首から出して迫り、不気味な迫力で魅力的な悪役だ。


半漁人や悪党側のモンスターなど、デル・トロは『ミミック』(1997)の監督らしく、ヌルヌルとした気色悪い趣味を発揮している。気色悪くても、異形のものへの愛情が伝わる視線は好ましいもの。『ミミック』の人間に擬態する突然変異の昆虫にさえ、一種哀しさを込めた監督らしいと言えよう。また、空を覆う雲から得たいの知れない巨大な触手が何本か蠢き、それを背景に破壊された世界に佇むヘルボーイを捉えた映像などは、永井豪の『デビルマン』を思わせる終末感が溢れていて素晴らしい。


そう、登場人物やディテールは凄く面白いのだ。しかしこの手の映画(『X-メン』シリーズを観よ)について回る、何故もっと魅力的な悪役を大挙出さないのかという不満が、この映画にもある。魅力的で強力な悪役は、善玉よりも多く出すべきだろう。そういった連中を倒せばこそ、ラストでもっとカタルシスが沸く筈。ラスプーチンとクロエネン、殺せば殺すほどに倍に増える魔獣サマエル、左程活躍しないブロンド美人イルザだけでは、観客の心を掴んでいるヘルボーイと半漁人、念力放火女に、味のある防衛局の人間たちに太刀打ちするには、やや数不足ではないか。


このともすれば壮大な作品にすべき内容を、予算のせいかもしれないが、デル・トロの脚本は矮小化してしまったきらいがありる。地獄やラスプーチンの世界など、もっと暗黒世界を掘り下げた作品にしても良かったのではないか。またそれ以前に、1本の映画として内容が未整理なのも気になった。これは世界で日本のみ劇場公開という、10分長いディレクターズ・カットのせいなのかも知れぬ。シリーズ最初の1本なので登場人物紹介に時間が割かれるのはやむを得ないが、後半は世界を暗転させるべく陰謀を働こうとするラスプーチン一味とヘルボーイらとの対決に絞り、アクション・ホラー映画として直線的に盛り上げるべきだった。終盤で半漁人君が活躍する場面が無いのも寂しい。


ヘルボーイ』は作り手の気持ちが入った映画ではあるものの、いささか力(ちから)足らずの感がする。それでも楽しめ、愛すべき作品で、捨てがたい面もあるのも確か。2006年公開予定の続編に期待しよう。


ヘルボーイ
Hellboy (Director's Cut)