テイキング・ライブス


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

モントリオールで起きた猟奇殺人事件の捜査を手伝うべく、捜査官イリアナ(アンジェリーナ・ジョリー)はFBIから派遣される。鋭い観察力とプロファイリング能力を駆使して地元刑事たちと共同で捜査する内に、次なる犠牲者が出てしまう。やがて彼女は、事件の目撃者コスタ(イーサン・ホーク)と惹かれ合うようになる。


このサイコ・スリラー映画、被害者に成りすましてその人生を乗っ取る(Taking Lives)連続殺人犯というアイディアが非常に面白い。マイケル・パイの原作『人生を盗む男』は犯人が主人公のスリラーで、イリアナも登場しないというから、まるで違う内容なのだろう。原作はどうだか分かないが、この映画の犯人像はアイディアに寄り掛かっているだけで犯行の動機もあいまい、意外と通俗的で面白味に掛けるのが難点。変身願望の権化のような悪役にでも設定する方法もあったろうに、深みに欠ける単なる異常者としての扱いに留まっているので、捜査官対連続殺人犯というよくあるパターンの映画に墜してしまった。


映画は当然ながら新たに創作されたイリアナの視点で描かれており、いかにも市場を意識したハリウッド・ローカライズの脚色(ジョン・ボーゲンカンプ担当)という感がある。それでもヒロインを演ずるアンジェリーナ・ジョリーの多面的な演技が、陳腐な脚色の中でも光る。颯爽とした登場場面や、その後に続くきびきびとした言動や捜査など、手馴れてはいるが中々魅力的。いやいやアンジェリーナは演技に手を抜かず、威勢の良い前半と、終盤での精神的ダメージを受けてからの落差と、どの場面でも全力投球なのが好感が持てる。しかし後半での彼女のどん底状態からラストの反撃へと繋がるのは、描きこみ不足とは言え心情を想像出来るのは良いとして、どうにも後味が悪い。説明が無いまま放置される数々の証拠や謎解きも含め、この手の映画が成功するのに必要な緻密さとは程遠い脚本だ。


中堅どころを揃えたキャスティングは何気に豪華で、謎の犯人の母親役にジーナ・ローランズを配したのは成功している。また、フランス語圏が舞台ということで、フランスの新旧魅力的な役者を揃えたのも嬉しい。イリアナと衝突する刑事役にオリヴィエ・マルティネス、ヒロインと旧知の捜査責任者にチェッキー・カリョ、マルティネスの相棒にジャン=ユーグ・アングラードという布陣だ。かつての色香二枚目アングラードはもっさりした中年刑事役も板に付いてしまっていて、リチャード・ギアがおじさん役に違和感が無くなったのと同様。人気テレビシリーズ『24』があっても、映画ではこの程度の扱いなキーファー・サザーランドはちょっと哀れだが。


D・J・カルーソーの演出は全体に陰に篭った感じで作品のトーンには合っており、冒頭のシークエンスも含めてところどころ光る場面があり、退屈はさせられない。ただ、映画全体を貫く緊張感に欠けてしまったのが惜しまれる。このところ映画音楽の仕事が多いフィリップ・グラスは、不気味で陰鬱ながらも面白い曲を付けている。


テイキング・ライブス』は、凝った冒頭タイトル・デザイン、好演しているスター女優など、幾つかは映画の題材に似つかわしく、期待はさせるものの、観ている間はそれなりに面白いだけの凡庸なスリラー/ホラーの範疇を超えられなかった。ヴィデオレンタルで観るのに十分な作品だ。


テイキング・ライブス
Taking Lives

  • 2004年/アメリカ、カナダ/カラー/103分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence including disturbing images, language and some sexuality.
  • 劇場公開日:2004.9.11.
  • 鑑賞日:2004.10.1./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘7 ドルビーデジタルでの上映。金曜19時15分からの回、170席の劇場は20人の入り。
  • 公式サイト:http://www.warnerbros.jp/~warnerbros.jp/takinglives/ あらすじ紹介、スタッフ&キャスト紹介、予告編、USサイトへのリンクなど。USサイトはフラッシュにサウンドと、恐ろしげな雰囲気を出している。