ヴィレッジ


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

19世紀末のアメリカ。森に囲まれた村には掟があった。決して森に入るな、と。そこには恐ろしい「彼ら」がいて、「彼ら」との協定でこの村の平和は保たれているのだ。しかし盲目のアイヴィーブライス・ダラス・ハワード)は、愛する青年(ホアキン・フェニックス)の命を救うために、勇気を振り絞って森へと入っていく。


この映画、世間ではかなり不評な様子。それも当然だろう。というのはこの映画、肝心のネタを明かされると・・・何と言うか、どのジャンルにさえ入らない、しかも困った代物なのだから。じゃぁシャマランが言う通りの恋愛映画としてどうかというと、その面でも心に響くものが無い。恋愛映画としての説得力がやや弱いのだ。


M・ナイト・シャマランならではの技巧が見られる作品は、いつもの様に大したネタでも無いのに、思わせ振りな演出(と巧い宣伝方法と相まって)で、中盤まで「高尚な顔をしたジャンル映画」として楽しませてくれる。赤が「彼ら」をおびき寄せるのは、黄色が「彼ら」に対して安全なのは、何故? 謎を幾つも散りばめて不気味さを盛り上げ、かったるい一歩手前のテンポでじわじわと不安感をかき立て、恐怖場面では見えるか見えないかの境目でぞっとさせる。出血量が殆ど無くとも怖がらせる手腕は相変わらず確かだ。


いや実際、シャマランのはったり恐怖演出は、もはや名人芸と言っても良いだろう。「彼ら」の正体が明かされた後なのに、終盤の「彼」がヒロインに襲いかかろうとする場面でたっぷりと恐怖を盛り上げるし、憎たらしい程の演出が冴える場面はあちこちにある。しかしいくら技巧が冴えても、脚本の欠陥を補うというのは無理というもの。それこそ余りに唖然とするしかない村の正体は予想外だったものの、それが映画として詰まらない正体なのには困ってしまう。


意外なのは良いとして、それが観客が期待していたもの以下だったのが問題だったのである。これはユートピアに対する考察だ、などと勿体付ける手もあろうが、それならばこういう一見ホラー映画として語らなくても良い筈。超常現象ネタを使ってもいい。超自然スリラーにしてもいい。しかし、どんでん返しとかトリックとかよりも、こんな使い古された仕掛けを用いて2時間近く描き、その仕掛けが下手なコメディ並みに笑え、しかも詰まらないとなると、いっそのこと今後はストレートに感情に訴える映画作りに軌道修正した方が良いのではないか。個人的に気に入った前作『サイン』(2002)も相当に際どい綱渡りをしていたが、いよいよシャマランは瀬戸際に来ているような気がする。


また恒例の監督自身の出演だが、これもヒッチコック程度の邪魔にならない程度ならばともかく、今回のような顔の見せ方はもうやめた方が良い。観客の映画への没入を妨げる障害となっている。もっとも、ネタ明かしの後で白け切った後では、それに輪を掛けるくらいの意味合いしかなかったが。


などとくさしはしたものの、映画の持つ独特な雰囲気は捨てがたいものがあるし、俺ってアタマ良いだろと得意げな作風も、山師並みな語り口の巧さも、何となく憎めないものがある。


ヒロイン役ブライス・ダラス・ハワードは監督ロン・ハワード(『バックドラフト』(1991)、『アポロ13』(1995)、『ビューティフル・マインド』(2001)など)の娘だそう。特に美人でもなく、盲目にも見えないものの、新人とは思えぬ堂々たる演技を披露してくれる。手垢の付いていない新人を起用したのは成功で、彼女の持つ純粋さと熱演が、映画で一番の見所と言っても良く、今後も期待させる役者の登場はハッピーだ。村の長老役にウィリアム・ハートシガーニー・ウィーヴァーブレンダン・グリーソンなどを、精神薄弱者役にエイドリアン・ブロディを配するなど、演技がしっかり出来る布陣を配しているが、ブロディの演技はあざとさが気になった。


ヴィレッジ
The Village