リディック


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

宇宙での民族統一を図ろうとする、ロード・マーシャル(コルム・フィオール)率いるネクロモンガー軍は、強大な武力で惑星を次々と制圧していった。5つの惑星でのお尋ね者リディックヴィン・ディーゼル)は、旧友の死をきっかけに銀河を救う為に立ち上がることになる。


凶悪犯リディックの活躍を描いたSFホラー『ピッチブラック』(2000)は未見だが、その続編である今回の映画は、独立した作品として観られる。それにしても低予算映画でそこそこの、本当にそこそこのヒットとなった前作が、まさかこんな大作SFアクションの続編を生むとは。後に主演のヴィン・ディーゼルが『ワイルド・スピード』(2001)、『トリプルX』(2002)と連続してヒット作を放ったとはいえ(そして今や早くも落ち目となった印象を払拭すべくの出演とは言え)、いやはや、世の中何が起こるか分かったものではない。


監督・脚本のデヴィッド・トゥーヒーは、『アライバル/侵略者』(1996)という、チャーリー・シーン主演の侵略SFの佳作や、『ビロウ』(2002)という潜水艦ホラーの小品しか観ていないものの(脚本のみの作品に、ハリスン・フォード主演の『逃亡者』(1993)、『ウォーターワールド』(1995)、『G.I.ジェーン』(1997)などがあり)、両方とも良作の小品で、ジャンル映画ファンにはお勧め出来る仕上がり。そのトゥーヒー初の超大作に期待半分不安半分で臨んだところ、出来映えはどうにもすっきりしないものだった。


先に挙げた『アライバル』と『ビロウ』は、すっきりとしたプロットをテンポ良く語り、あちこちに小技を効かせたところに、監督・脚本家としての手腕が認められた映画だった。比較的低予算の映画でも、工夫されたスリリングな演出などに見所も多かった。それが今作では大風呂敷を広げ、大掛かりな見せ場をこしらえ、大河ドラマ調の複雑な登場人物関係を絡めているものの、結果的に物語がごたごたとして直線的に盛り上がらない。脚本が失敗しているのだ。銀河のお尋ね者リディックが主役ならば、トゥーヒーらしくシンプルな展開に徹しても良かったのではないか。冒頭の氷の惑星での賞金稼ぎによるリディック追跡場面、寒暖差が何百度という惑星の地表での逃亡劇など、映像的にも設定的にもSFならではの面白い場面が用意されてはいるのに、サブ・プロットであるロード・マーシャルを蹴落とすべく陰謀を張り巡らす、マクベス夫人を思わせるデイム・ヴァーコ(タンディ・ニュートン)とその夫ヴァーコ将軍(カール・アーバン)のエピソードなど、本筋との絡みにどうにも居心地の悪さがある。リディックの活躍を盛り上げるべきこの映画にしては、陰謀劇に時間を割き過ぎたのではないか。


いや、この映画が目指そうとしたのは、原題名にある「The Chronicles(年代記)」にある通り、それこそ大河宇宙活劇ドラマだったのだろう。大女優のジュディ・デンチまで引っ張り出し、重低音を轟かせて珍しく画面に合っているグレイム・レヴェルの音楽も、SF活劇というよりも史劇大作に相応しい。大掛かりで重厚なセットで悪の王朝を華麗に彩り、そこで渦巻くどす黒い陰謀を並行させ、複雑で重層的な娯楽映画にする。そう1950年代にハリウッドで作られたローマ史劇のように。だからネクロモンガー軍の宇宙船やセットのデザインが、『ベン・ハー』(1959)の戦車競技場の巨像を思わせるのも納得できよう。壮大な映像や美術・衣装など、映画全般のプロダクション・デザインは力が入っていて、かなり見応えがあるのだ。しかし活劇を活劇たらしめなかった野心が、活劇の単純な面白さを妨げる邪心となってしまった。映画のラストにあるオチを観れば、結局のところ落ち着く所は娯楽活劇だったのだから。


リディック
The Chronicles of Riddick

  • 2004年/アメリカ/カラー/118分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of violent action and some language. (edited for re-rating)
  • 劇場公開日:2004.8.7.
  • 鑑賞日:2004.8.30./丸の内プラゼール ドルビーデジタルでの上映。平日月曜13時30分からの回、552席の劇場は70人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.riddick.jp/ ディーゼル兄貴の来日記者会見&ジャパン・プレミア採録、フィギュアなどの関連商品紹介、作品世界の紹介など、内容はかなり充実したサイト。やはり大作系はこれくらいやってくれないと。