LOVERS


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

唐の時代。朝廷に対する反乱軍「飛刀門」は民衆の支持を得て、着々と勢力を伸ばしていた。朝廷側は飛刀門一派壊滅に乗り出し、飛刀門頭目の娘と目される盲目のシャオメイ(チャン・ツィイー)を逮捕する。捕吏のジン(金城武)とリウ(アンディ・ラウ)は頭目を捕らえるべく画策を練る。ジンはわざとシャオメイを脱獄させ一緒に逃亡、2人の後をリウが追うのだ。ジンとシャオメイの前には、事情を知らない捕吏達が待ち構え、幾多の危機を乗り越えた2人は、いつしか恋に落ちていく。


チャン・イーモウ監督の武侠映画第2弾に対し、前作『HERO』(2003)に比較して失望の声があちこちから聞こえる。しかし、アクションというよりも様式化された「舞」だった『HERO』に対し、こちらはきちんとしたアクション映画になっており、娯楽映画としてはむしろ『LOVERS』の方が見応えがあるのではないか。この手の映画に慣れてきたからなのか、チャン・イーモウはアクションをアクションとして撮っていて、様式美にアクションを閉じ込めた前作とは対照的なアプローチを取り、アクションに様式美を持ち込むことに成功している。それでも、物理の法則が通じない世界で小刀がびゅんびゅんと飛ぶなぞのアクションの数々は迫力があっても、極限と思われる肉体技を次々と繰り出した『マッハ!!!!!!!!』(2003)を観た後には、CGを多用した剣戟も食傷気味に思えてしまうのは致し方ないか。


映画の序盤の見せ場は、シャオメイが自身が本物の踊り子かどうか、リウの前で証明して見せる場面だ。絢爛豪華な色彩に溢れたセットの中で、これまた極彩色に彩られたワダ・エミの衣装をまとったチャン・ツィイーが舞う映像が素晴らしく、またツィイー自身の動きも美しい。この場面を筆頭に、ほぼ全編出ずっぱりの彼女は大熱演。この映画のスターは彼女だろう。さらにこの「舞」の場面は、チャン・イーモウの色彩感覚が良く出ていると言えよう。画面を赤・青・緑などの単色で塗りつぶした『HERO』に対し、こちらは様々な色を使っていて、それが濁らず、下品になっていない。これでCG多用でなかったらさらに良かった気もしするが、この映画は人工美に彩られた世界なので、まぁ違和感は少なかった。


やがて映画はジンとシャオメイの逃避行になっていく。この中盤は逃走→襲い掛かってくる捕吏の群れとの闘い→逃走→襲い掛かってくる捕吏の群れとの闘い、の繰り返しになってしまっていて、次第に単調になってくる。飛び交う小刀に竹林での竹槍攻撃など、およそ現実離れしたアクションの数々はそれなりに見応えがあるが、脚本の単調さまでは救えていない。しからばという訳ではないだろうが、飛刀門のアジト登場後はどんでん返しを幾重も繰り出し、こうなってくると全体にバランスが悪くなってきてしまう。また、終盤は3人の男女の三角関係ものへと展開してきて、それ自体は悪くないものの(となると、この映画の主題をばらしている邦題はなかなか良いのでは)、物語が矮小化されてしまったきらいがある。


加えて要所で何も説明されないまま放置された箇所があるのもすっきりしない。思わせぶりな飛刀門の頭目の正体は? 朝廷と飛刀門の対決は? など、観客の注意を呼びながらその顛末を語らないのは、それらが主題ではないとはいえ、いささかの居心地の悪さがあろう。


クライマクスの草原での対決場面がやがて吹雪の雪野原となるのは、いくら武侠ものでも強引ではないかと思いきや、実際に撮影中に起こったこととか。そういったアクシデントを取り込み、最後まで画面の色彩に変化を与えようとするチャン・イーモウの意思は見上げたものではあるが、最後の最後に来て肝心のアクションが盛り上がらないのが惜しい。これは登場人物の感情の盛り上げ、そして殺陣の振り付けとアクション演出プランが失敗したからではないか。


金城も悪くないが、抑えた演技で通し、爆発させる、アンディ・ラウが印象強く残る。梅林茂の静かな音楽は、ラヴ・ストーリーとしての作品に合っていた。


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十面埋伏 (House of Flying Daggers)