ドリーマーズ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1968年パリ。映画館に入り浸るアメリカ人留学生のマシュー(マイケル・ピット)は、同じく映画好きな双子の姉弟であるイザベル(エヴァ・グリーン)とテオ(ルイ・ガレル)と知り合う。姉弟の両親が居ない間にアパルトマンで共同生活を始めた3人は、映画と性に塗れた退廃的な生活を送るようになる。


暗殺の森』(1970)、『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)、『1900年』(1976)、『ラスト・エンペラー』(1987)といった傑作・名作・問題作・話題作を作ってきた巨匠ベルナルド・ベルトルッチの新作は、鮮烈で若々しさに溢れながら、青春への羨望と苦味が入り混じった作品となっている。


ジミ・ヘンドリックスがギターをかき鳴らす音色をバックに、幾重にも複雑に織り成す鉄骨の巨大建造物を上から下まで延々と映す背景にタイトルを重ね合わせ、クールでありながら1970年前後の映画のスタイルを想起させる冒頭が秀逸だ。くだんの建造物がエッフェル塔であり、その前を歩く青年マシューのナレイションから、大学紛争に至る5月革命の背景を絡め、やがてマシューが双子と知り合うようになって共同生活を始めるまで、ベルトルッチの演出は軽快で快調である。


主人公たちが映画館のスクリーンに耽溺するシネフィルということで、彼らが『はなればなれに』(1964)、『怪物團(フリークス)』(1932)といった名作の場面を真似する数々の場面は微笑ましく、それら名作の映像を挿入した編集も気持ち良い。もっともここいら辺の作品を僕は殆ど観ていないのだが、それでも映画好きであることの幸福感がこちらにきちんと伝り、こういった演出の上手さはさすがと言えよう。特にルーブル美術館を3人で駆け抜ける場面などは、若者が発散するエネルギーと、青春の息吹とでも呼ぶべきものが描かれていて秀逸である。


そうした雰囲気が妖しくなってくるのは、双子が裸で一緒に寝ているところをマシューが目撃する辺りから。やがて映画は近親相姦的な双子の感情と、その関係に深入りいくマシューのドラマへとなっていく。


日本版ならではの特徴として、例えば嫌がるマシューの下着を引き摺り下ろすと、勃起したペニスと共にイザベルの写真が出てくる、などという露骨ではあるもののユーモラスな場面に無粋な修正が画面を覆うのが残念だ。若い美男美女たちのギリシア彫刻のように美しい裸体も作品の重要なテーマの1つである作品にあって、頻繁に見られるボカシやカットがいちいち気に障ってくる。しかし修正やカットがされず、オリジナルの完全版であっても、果たして映画全体が一部で言われるような傑作であったかどうか、やや疑問だ。


パリの異邦人であるマシューが、若い頃をパリで過ごしたベルトルッチそのものなのは想像に難くない。映画に溺れ、異郷の地で恋人/友人と戯れていても、どこか疎外されているとの実感がある。毛沢東思想に惹かれる双子と、それに反発しつつも、ヴェトナム徴兵を逃れるべく異国での留学生として過ごすマシューの間には、越え難い壁があるのだ。こういった心情を、ベルトルッチは説明過多になることなく、適切な台詞をドラマに配置して描いている。だが正直言って序盤のリズミカルな調子から一転して、中盤は深刻な雰囲気の中、リズム感に欠けていた気がした。深刻な内容でも、何も鈍重にならなくて良い筈である。


それでもこの映画は最後に息を吹き返す。『ラスト・タンゴ〜』の最後の15分、出て行ったマリア・シュナイダーを追ってマーロン・ブランドーが走るくだり以降の展開同様、この映画もアパルトマンから飛び出した途端に停滞した空気を一掃するのだ。窓ガラスを割って飛び込む1片の石礫が、この世から乖離していた世界に突如吹き込んだ現実となり、5月革命になだれ込む終盤は勢いがある。ここでマシューは己が双子と同化できないことを自覚し、そこにベルトルッチがパリに同化できなかった過去の苦い思いを映し出すのだ。


主演の男女3人は皆好演。特筆すべきは、時に残酷、時に無垢なイザベル役のエヴァ・グリーンだろう。こういう逸材を発見したベルトルッチの碧眼はさすがだ。


ドリーマーズ
The Dreamers

  • 2003年/イタリア、フランス、イギリス、アメリカ/カラー/115分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated NC-17 for explicit sexual content.
  • 劇場公開日:2004.7.31.
  • 鑑賞日:2004.8.9./シネスイッチ銀座1 ドルビーデジタルでの上映。月曜11時45分からの回、273席の劇場は40人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.herald.co.jp/official/dreamers/index.shtml プロダクション・ノート、予告編など。