キング・アーサー


★film rating: C+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

西暦415年。ローマ帝国支配下ブリテンにて、ブリトン人司令官アーサー(クライヴ・オーウェン)率いる円卓の騎士たちは、残虐なサクソン軍団に囲まれつつある村に救出に向かう。


アーサー王伝説に材を取ったこの映画、『グラディエーター』(2000)に端を発した近年の史劇大作アクションものとして一番面白くない、全くの凡庸な出来映えだ。何度も映像化されているアーサー王伝説を、伝説ではなくその元となった人物に焦点を合わせた歴史映画というのが眼目で、それはそれで面白い着眼点である。確かに過去のアーサー王伝説ものは、史劇というより歴史ファンタシーの色が濃いものが多かった。それならそれと、より徹底した時代考証の史劇アクションでも良かった筈なのに、どうにも描写が浅い。そもそも、アーサー王との間にロマンスが芽生えるグウィネヴィアを、濡れた眼差しで見つめる騎士ランスロットや、聖剣エクスカリバー、魔法使いマーリンに、ガウェインやガラハッド、トリスタンといった円卓の騎士たち・・・と、お馴染みの人物や題材を用いて観客にこの伝説の定番を期待させながら、何とも中途半端な引用に終わっているだけというのが、製作者たちも映画のコンセプトを分かっていなかったのではないか。そう思わせる頼り無さである。


この映画が詰まらないのには他にも色々理由があるが、キャスティングの悪さも挙げられる。この手の大作には華やかなスターが欲しいもの。アーサー役にクライヴ・オーウェンだって? 確かに彼は良い役者だが、アーサー王にはまるで似つかわしくない。以下、映画の脇役なぞでよく見る顔ぶれを配置したものの、髭もじゃで泥に汚れた男たちばかりで、どうにもむさ苦しいキャスティングになったのは大失敗だ。紅一点、キーラ・ナイトレイをグウィネヴィア役に起用しているものの、彼女1人に鬱陶しさを駆逐するのを期待するのは酷というものだろう。


困ったことにアクション映画としてもまるで面白くない。血塗られたチャンバラでも、成人指定を逃れる為に左程暴力的でもない代物で適当に見せてくれるが、活劇たりえる状況設定を用意したのに、活劇らしい爽快感がまるで無いのは大減点だ。大体、監督に爽快感の無いアクション映画を撮るアントワン・フークア(『トレーニング デイ』(2001)、『ティアーズ・オブ・ザ・サン』(2003))を起用したのが間違いではないだろうか。唯一の見所として、凍てついた湖面で追っ手の軍勢を迎え撃つ場面があるが、そこもキャメラワークや編集が下手なので盛り上がりに欠けてしまっている。また退屈はさせないものの全体にテンポが悪く、そろそろ面白くなりそうかと思わせていつまでもだらだら続き、結局そのまま終わってしまう。


製作者ジェリー・ブラッカイマーというと、近作の『パール・ハーバー』(2001)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003)、『バッドボーイズ2バッド』(2003)でも、予告編以上のものが本編に無い、見掛け倒しの内容空っぽ映画を連発しているハッタリ商売屋で、今回もぱっとしない予告編以上のものが本当に何も無いという、正に予想通りの製品だ。まぁそもそもアメリカ人である山師ブラッカイマーが、真面目にイギリスの伝説を映画化するわけなど洟から無い訳でがある。そのブラッカイマー作品常連のハンス・ジマーの音楽も、貧相な画面にスケールの大きさをやたら誇張して付けていても、明確なテーマも印象も無く、いつものシンセの音でオーケストラの演奏を安っぽくおとしめている。


こんな中途半端な史劇を観るくらいならば、いっそ『エクスカリバー』(1981)を観直した方が何倍もましだ。アーサー王伝説に魅入られたジョン・ブアマンの秀作は、伝説の簡潔な要約として、おどろおどろしい映像化として、お勧め出来る作品なのだから。


キング・アーサー
King Arthur